前書き
『チェコ語の隙間の隙間』(白水社)
黒田龍之助先生が長年つき合ってきた、スラブのさまざまなことばにまつわる魅力がたっぷりのエピソード集。大勢の学生さんを魅了してきた黒田先生の前口上(本書「はじめに」)に引き込まれて、あなたもことばの「沼」にハマること間違いなし!
しかも目次を見ればチェコ語だけではなく、ポーランド語とかブルガリア語とか、いろんな言語名が並んでいる。一冊の本に、どうしてあれこれ詰め込まれているのか、不信感はますます募る。実をいえば、これはいろんな言語についてのエッセイ集なのである。そんな本は聞いたことがないと文句をいわれても、現にこうして目の前に存在するのだから仕方がない。
いろんな言語についてのエッセイなので、実際にいろんな言語が登場する。ロシア語と同じキリル文字を使う言語もあれば、英語と同じラテン文字で表される言語もある。たとえラテン文字であっても、文字と発音の関係を知らなければ読めない。そこでフリガナをつけてみた。とはいえ、それほど正確なものではない。メモ程度に考えてほしい。そもそも複数の言語間で矛盾のないフリガナなんて、不可能なのである。巻き舌だけはひらがなのら行を使ってみたが、それ以上は区別していない。
この本はまず、それぞれの言語の学習者に向けて書かれている。ポーランド語、チェコ語、スロバキア語、スロベニア語、クロアチア語、セルビア語、ブルガリア語などを実際に勉強している人が読めば、ちょっと面白いかもしれない。だがそういう人は限られている。それだけがターゲットではあまりにも売れそうになく、白水社の営業部は頭を抱えてしまう。
そこでもうすこし広げ、ロシア語学習者も対象としよう。というのも、この本に登場するのはロシア語と親戚関係にある言語ばかりだからである。似ている単語とか、共通点なんかが見つかるかもしれない。これはいままでになかった面白さだ。きっと楽しんでくれるに違いない。それでも問題は残る。最近はロシア語の学習者数がひどく少ないのである。
だからさらに広げて、外国語に興味がある人だったら誰でもいいことにしたい。これまで英語にしか触れてこなかった人でもいい。英語すらすっかり忘れてしまった人でもいい。漠然とでも外国語に興味がある人なら、すこしは面白がってくれるのではないかと期待している。
わたしのことをロシア語教師、あるいは言語学者だと捉えていた方は、なんでこのような本を書いたのか、意外に思われるかもしれない。確かに細かい事実や正確な情報については、それぞれの言語の専門家の方がずっと詳しい。知識を求める方はそちらの書物を参照することをお勧めする。
それでもわたしは、まさにこういう本が書きたかったのである。長年つき合ってきたチェコ語やポーランド語、スロベニア語、セルビア語、クロアチア語など、わたしはいまだに一学習者にすぎないけれど、勉強を続けていけば、魅力的な世界がどんどん広がる。その一部を伝えたいのである。
ということで、たとえ間違ってこの本をお買い求めになったとしても、決して損はいたしません。試しに、いくつか拾い読みしてはいかがですか。
[書き手]黒田龍之助(くろだ・りゅうのすけ)
1964年、東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科卒業。東京大学大学院修了。スラヴ語学専攻。現在、神田外語大学特任教授、神戸市外国語大学客員教授。
隙間に目を向けると、魅力的な世界が広がる
まさかいないとは思うが、この本をチェコ語の参考書のつもりで購入された方は、今さぞや失望されていることだろう。書店で手に取れば気づいたかもしれないが、通販でお求めの場合には分かりにくいこともある。気の毒としかいいようがない。しかも目次を見ればチェコ語だけではなく、ポーランド語とかブルガリア語とか、いろんな言語名が並んでいる。一冊の本に、どうしてあれこれ詰め込まれているのか、不信感はますます募る。実をいえば、これはいろんな言語についてのエッセイ集なのである。そんな本は聞いたことがないと文句をいわれても、現にこうして目の前に存在するのだから仕方がない。
いろんな言語についてのエッセイなので、実際にいろんな言語が登場する。ロシア語と同じキリル文字を使う言語もあれば、英語と同じラテン文字で表される言語もある。たとえラテン文字であっても、文字と発音の関係を知らなければ読めない。そこでフリガナをつけてみた。とはいえ、それほど正確なものではない。メモ程度に考えてほしい。そもそも複数の言語間で矛盾のないフリガナなんて、不可能なのである。巻き舌だけはひらがなのら行を使ってみたが、それ以上は区別していない。
この本はまず、それぞれの言語の学習者に向けて書かれている。ポーランド語、チェコ語、スロバキア語、スロベニア語、クロアチア語、セルビア語、ブルガリア語などを実際に勉強している人が読めば、ちょっと面白いかもしれない。だがそういう人は限られている。それだけがターゲットではあまりにも売れそうになく、白水社の営業部は頭を抱えてしまう。
そこでもうすこし広げ、ロシア語学習者も対象としよう。というのも、この本に登場するのはロシア語と親戚関係にある言語ばかりだからである。似ている単語とか、共通点なんかが見つかるかもしれない。これはいままでになかった面白さだ。きっと楽しんでくれるに違いない。それでも問題は残る。最近はロシア語の学習者数がひどく少ないのである。
だからさらに広げて、外国語に興味がある人だったら誰でもいいことにしたい。これまで英語にしか触れてこなかった人でもいい。英語すらすっかり忘れてしまった人でもいい。漠然とでも外国語に興味がある人なら、すこしは面白がってくれるのではないかと期待している。
わたしのことをロシア語教師、あるいは言語学者だと捉えていた方は、なんでこのような本を書いたのか、意外に思われるかもしれない。確かに細かい事実や正確な情報については、それぞれの言語の専門家の方がずっと詳しい。知識を求める方はそちらの書物を参照することをお勧めする。
それでもわたしは、まさにこういう本が書きたかったのである。長年つき合ってきたチェコ語やポーランド語、スロベニア語、セルビア語、クロアチア語など、わたしはいまだに一学習者にすぎないけれど、勉強を続けていけば、魅力的な世界がどんどん広がる。その一部を伝えたいのである。
ということで、たとえ間違ってこの本をお買い求めになったとしても、決して損はいたしません。試しに、いくつか拾い読みしてはいかがですか。
[書き手]黒田龍之助(くろだ・りゅうのすけ)
1964年、東京生まれ。上智大学外国語学部ロシア語学科卒業。東京大学大学院修了。スラヴ語学専攻。現在、神田外語大学特任教授、神戸市外国語大学客員教授。