失敗を越えて
過去の日本の宇宙開発は、失敗が多かった。川口さんがはやぶさの前にかかわった火星探査機「のぞみ」も、軌道に投入することができず失敗に終わった。ロケットの打ち上げも何度も失敗した。巨額の税金を投じているため、失敗への社会の目は厳しく、さまざまな批判にさらされた。はやぶさも、それらに負けず劣らずトラブルばかりだった。運用に欠かせない大切な機器が次々と故障した。それでも、はいつくばって地球へ帰ってきた。そのころから国内の雰囲気が変わった。「失敗しても(トラブルを起こしても)いいじゃないか。それを糧に次に頑張ればいい」と。
はやぶさとはやぶさ2
バブル経済が崩壊して以降、日本人は自信を失い、人によっては自虐的になり、バラバラになった。さらに、「自己責任」という言葉が象徴するように、力を合わせることや助け合うこと、本音で語り合うことが冷ややかに見られるようになった。世界は「分断」が深まる方向へ進んでいる。そのような社会情勢の中で、はやぶさ、はやぶさ2は、バラバラになった日本人同士が、つながることができるということを示した。日本人だけではない。はやぶさ2では国内外の研究者、これまで仰ぎ見ていたNASAの技術者、研究者たちとも対等につながり、多くの人々が目標に向かって協働するネットワークを生んだ。きれいごとではなく、あきらめないで自分たちの力を信じて努力をすれば、想定を超えるような力を出せるということを証明したといえる。
好奇心を源泉に
津田さんは、はやぶさ、はやぶさ2という宇宙探査は「究極の基礎科学」と話した。そうだとすると、「キュリオシティドリブン(好奇心を源泉に持つ)」のミッションがなくなれば、科学としての魅力は色褪せてしまう。はやぶさの実現を後押しした松尾弘毅・元宇宙研所長は、宇宙開発の歴史を振り返り、「草創期は、いろんなやつが何をやってもいい自由な時代だった。ルールができると官僚的になって、政治的な判断が入ってくる。バーバリアン(野蛮人)がいなくなれば、衰退に向かうのみだ」と話していた。今の日本で「バーバリアン」は存在しうるのだろうか。子どもたちに未来を
はやぶさ帰還後のインタビューで、川口さんはこう言った。「国民は本当に役に立つものを欲しているのか。欲しているのは、明るい展望なのではないのか」。津田さんは著書で、こうつづる。「子どもたちに、未来に希望は確かにあり、大人になることは楽しいことだと感じてもらいたい」日本は今後、「明るい展望」「未来の希望」を打ち出せる国であり続けられるのか。記者として、注視していかなければならないと思っている。
[書き手]永山悦子