前書き

『はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの』(毎日新聞出版)

  • 2022/04/13
はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの / 永山 悦子
はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの
  • 著者:永山 悦子
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(368ページ)
  • 発売日:2022-03-07
  • ISBN-10:462032728X
  • ISBN-13:978-4620327280
内容紹介:
2022年、JAXAのはやぶさ2プロジェクトチームは解散し、はやぶさから始まったプロジェクトの幕が下りる。
はやぶさとはやぶさ2がつむいだ「物語」とは、私たちにとって何だったのか。
誰よりも熱く、プロジェクトを追い続けた科学記者が描く、知られざる人間ドラマ!
「はやぶさ」「はやぶさ2」の知られざる人間ドラマ。15年以上にわたり情熱的にプロジェクトを追い続けた科学記者が、膨大な取材ノートをひもときながら描く『はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの』は、「はやぶさ愛」あふれる一冊です。本書のあとがきの一部を紹介します。
 

失敗を越えて

過去の日本の宇宙開発は、失敗が多かった。川口さんがはやぶさの前にかかわった火星探査機「のぞみ」も、軌道に投入することができず失敗に終わった。ロケットの打ち上げも何度も失敗した。巨額の税金を投じているため、失敗への社会の目は厳しく、さまざまな批判にさらされた。

  はやぶさも、それらに負けず劣らずトラブルばかりだった。運用に欠かせない大切な機器が次々と故障した。それでも、はいつくばって地球へ帰ってきた。そのころから国内の雰囲気が変わった。「失敗しても(トラブルを起こしても)いいじゃないか。それを糧に次に頑張ればいい」と。

はやぶさとはやぶさ2

バブル経済が崩壊して以降、日本人は自信を失い、人によっては自虐的になり、バラバラになった。さらに、「自己責任」という言葉が象徴するように、力を合わせることや助け合うこと、本音で語り合うことが冷ややかに見られるようになった。世界は「分断」が深まる方向へ進んでいる。

そのような社会情勢の中で、はやぶさ、はやぶさ2は、バラバラになった日本人同士が、つながることができるということを示した。日本人だけではない。はやぶさ2では国内外の研究者、これまで仰ぎ見ていたNASAの技術者、研究者たちとも対等につながり、多くの人々が目標に向かって協働するネットワークを生んだ。きれいごとではなく、あきらめないで自分たちの力を信じて努力をすれば、想定を超えるような力を出せるということを証明したといえる。

好奇心を源泉に

津田さんは、はやぶさ、はやぶさ2という宇宙探査は「究極の基礎科学」と話した。そうだとすると、「キュリオシティドリブン(好奇心を源泉に持つ)」のミッションがなくなれば、科学としての魅力は色褪せてしまう。はやぶさの実現を後押しした松尾弘毅・元宇宙研所長は、宇宙開発の歴史を振り返り、「草創期は、いろんなやつが何をやってもいい自由な時代だった。ルールができると官僚的になって、政治的な判断が入ってくる。バーバリアン(野蛮人)がいなくなれば、衰退に向かうのみだ」と話していた。今の日本で「バーバリアン」は存在しうるのだろうか。

子どもたちに未来を

 はやぶさ帰還後のインタビューで、川口さんはこう言った。「国民は本当に役に立つものを欲しているのか。欲しているのは、明るい展望なのではないのか」。津田さんは著書で、こうつづる。「子どもたちに、未来に希望は確かにあり、大人になることは楽しいことだと感じてもらいたい」

日本は今後、「明るい展望」「未来の希望」を打ち出せる国であり続けられるのか。記者として、注視していかなければならないと思っている。

[書き手]永山悦子
はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの / 永山 悦子
はやぶさと日本人 私たちが手にしたもの
  • 著者:永山 悦子
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(368ページ)
  • 発売日:2022-03-07
  • ISBN-10:462032728X
  • ISBN-13:978-4620327280
内容紹介:
2022年、JAXAのはやぶさ2プロジェクトチームは解散し、はやぶさから始まったプロジェクトの幕が下りる。
はやぶさとはやぶさ2がつむいだ「物語」とは、私たちにとって何だったのか。
誰よりも熱く、プロジェクトを追い続けた科学記者が描く、知られざる人間ドラマ!

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