自著解説

『思い出のとしまえん』(文学通信)

  • 2022/05/31
思い出のとしまえん / 小宮 佐知,内田 弘,小林 克
思い出のとしまえん
  • 著者:小宮 佐知,内田 弘,小林 克
  • 編集:練馬区立石神井公園ふるさと文化館
  • 出版社:文学通信
  • 装丁:単行本(196ページ)
  • 発売日:2022-05-31
  • ISBN-10:4909658769
  • ISBN-13:978-4909658760
内容紹介:
としまえん、94年の卒業アルバム!大正15(1926)年に、現在の練馬区向山で開園した遊園地「としまえん」は、令和2(2020)年8月31日、多くの人々に惜しまれつつ94年の歴史に幕を閉じました。… もっと読む
としまえん、94年の卒業アルバム!

大正15(1926)年に、現在の練馬区向山で開園した遊園地「としまえん」は、令和2(2020)年8月31日、多くの人々に惜しまれつつ94年の歴史に幕を閉じました。
としまえんは、世界初の流れるプールや、日本初の本格的ダークライド「アフリカ館」の開設、機械遺産となった世界最古級の回転木馬「カルーセルエルドラド」の移設、斬新な広告展開など、常に時代の最先端をいき、遊園地の楽しさを多くの人々に発信してきました。
本書はとしまえんのあゆみを、練馬区立石神井公園ふるさと文化館で開催された企画展「思い出のとしまえん」をベースに、ポスターや写真など、さまざまな資料からたどります。

掲載図版400点以上、一世を風靡したポスター40点以上掲載。としまえ最後の事業運営部長内田弘氏の講演会「乗り物から振り返る『としまえん』」も収録。この講演は遊園地などの娯楽産業に携わる人には必読の文章です。小宮佐知子氏による「遊園地の歴史にみる豊島園の開園」では、遊園地の成立事情やその実態をつぶさに描き出します。

としまえんを愛するすべての人に。遊園地とは何かということを考えたいすべての人に。
2020年8月末、東京都練馬区にあった遊園地が多くの人々に惜しまれながら閉園した。大正時代より94年間続いた「としまえん」。世界初の流れるプールに、日本初の本格的ダークライド「アフリカ館」の開設、今までなかった斬新な広告展開……その長きにわたる歴史をまとめた書籍『思い出のとしまえん』(文学通信)が5月末に刊行される。刊行に際して、としまえん最後の事業運営部長を勤めた内田弘氏は、変わりゆく時代の中で、遊園地の存在価値をどのように見つけたのか。
 

解体されゆく乗り物たち

「遊園地としまえん」とはどのような遊園地だったのか?閉園に向けてずっと考えていました。
私がとしまえんに入社したのは1981年。としまえんが開園したのは1926年ですから、既に55年が経っていました。基本的な遊園地の形は出来上がってたので、私の仕事は、新たな計画のために古い何かを壊し、新しいものを造るという「スクラップ&ビルド」の繰り返しでした。今考えると残しておきたかった遊戯施設も沢山あります。「観覧車」「スカイダイバー」「アストロライナー」「アフリカ館」「シャトルループ」「トップスピン」……老朽化の問題もあり仕方なく解体しました。新しい施設を造るためでしたから、もちろん前向きな気持ちも当時はありました。

しかし、そのスクラップ&ビルドで懸命に造り上げてきたとしまえんが閉園になり、「サイクロン」「フリュームライド」「トロイカ」「スイングアラウンド」「コークスクリュー」「フライングパイレーツ」「ブラワーエンジン」「ミステリーゾーン」「お化け屋敷」等々も引退へ。まだまだ十分現役であった優れた遊戯施設が重機で解体される姿は悲しくて見たくありませんでした。閉園後の2020年9月1日以降には、私は極力園内には入っていません。

そのような運命を辿ることは分かっていたので、私に課せられた閉園日までの重要な仕事は「自分の気持ちを抑えて最後まで笑顔でお客さまをお迎えすること」、そして「一機種でも多くの遊戯施設を第二の人生となる場所に迎えてもらうこと」でした。「カルーセル・エルドラド」「模型列車(車輌1編成)」「チャレンジトレイン」「ミニイーグル」「バタフライダー」「スナッピー」「コークスクリュー(車輌1編成)」「トリックメイズ」「ミニサイクロン(車輌)」などの遊戯施設と「アーケードゲーム」「ゴミ箱」「グリーンベンチ」「ピクニックベンチ」等は、他の遊園地での受け入れもあり、何とか壊さず残すことができました。



 

遊園地不要の時代に

思えば、としまえん勤務40年の間に世界中の遊園地50か所以上とウォーターパーク10か所以上を見る機会をいただきました。社内結婚して新婚旅行もアメリカの遊園地を巡りました。二人の子供が生まれてからは休みの日には国内の遊園地(もちろんTDRも含みます)を回り、アメリカ西海岸の遊園地巡りにも行きました。でも子供たちが一番多く通ったのは外でもない、としまえんでした。それこそ、たくさんの家族の思い出があります。(その子供たちもすっかり大人になりました。)お客様目線での体験も大切にした、公私ともにまさしく遊園地に明け暮れる40年間でした。

娯楽の少なかった昭和20年代から40年代は、映画館やボウリング、温泉地や海水浴など行楽地に出かけることが娯楽の主流でした。昭和50年代から60年代は国内で遊園地が続々オープンし、家族連れや若者の娯楽の中心となりました。

どの時代も、娯楽とはどこかに出かけるだけが目的ではなく、「コミュニケーションの場」としての役割がありました。遊園地の使命もそのための心地よい場を提供することだと考えていました。

平成に入り「メール」「スマホ」が日常のツールへ、「場を共にしなくてもコミュニケーションが取れる」時代になったことで、遊園地にとって厳しい時代へ突入してきました。遊園地が不要な時代になるのか、とさえ思うようになっていきました。


この場所に遊園地があったこと

遊園地は不要なのか。閉園前に開催したとしまえんの歴史を振り返るガイドツアーでは「としまえんは、楽しいこと、面白いこと、お客様が喜ぶことは何だろう、ということしか考えてない遊園地でした」と申し上げていたのですが、これは自己満足ではないのかとずっと不安でした。しかし、皮肉なことに、としまえんが閉園することになって、その不安を吹き飛ばす嬉しい出来事がありました。

たくさんのお客様からとしまえんに対する熱い想いを直接伺うことができ、感謝のお手紙もたくさんいただいたのです。家族や友人、仲間との絆を大切にされている多くの方が、としまえんの存在価値を深く理解してくださっていたことを知り、心がとても温かくなりました。人と人とが離れながらにしてコミュニケーションが取れる時代になっても、遊園地のような「共通の思い出を作る場」が必要だった。私の「遊園地不要論」は間違いであったとやっと確信できたのです。そして、今まで手探りで考えながら目指してきたことが間違いではなかったと自信を持つことができ、とても幸せな気持ちで閉園の日までを過ごすことができました。「閉園になったからこそ頂けた勲章のようなものだね」と家族も喜んでくれました。

カルーセル・エルドラドの木馬の背に乗り手を振る我が子の笑顔に小さな幸せを感じたり、サイクロンに乗って友人と大きな声で叫んで非日常を楽しんだり、そんな何気ない、でも、とてもかけがいのない、素敵な思い出を提供できる素晴らしい場。としまえんはそんな遊園地でした、と今は誇りを持って言うことができます。

としまえんは無くなりましたが、遊園地、テーマパークは永遠に在り続けるはずです。そこに行くたびに、東京の練馬にとしまえんがあったこと、としまえんでの家族や友人との思い出を語り合ってください。そして書籍『思い出のとしまえん』を読んで、94年間のとしまえんの歴史にご自分の記憶を重ねて振り返って頂ければ幸いです。

94年間、としまえんを愛していただき本当にありがとうございました。
 
[書き手]内田 弘 (うちだ・ひろし)
1955年東京都生まれ。東京理科大学理工学部機械工学科卒業。大学卒業後、特種自動車関連メーカーに入社、テレビ中継車、レントゲン車などの営業および設計に従事。1981年に縁あって株式会社豊島園に入社。遊戯施設のメンテナンスと新規事業計画の企画業務を約20年間兼務した。2020年8月31日事業運営部長として、としまえんの閉園を迎える。2021年5月19日にリニューアルされた西武園ゆうえんち運営支配人となり、現在は運営部部長。
思い出のとしまえん / 小宮 佐知,内田 弘,小林 克
思い出のとしまえん
  • 著者:小宮 佐知,内田 弘,小林 克
  • 編集:練馬区立石神井公園ふるさと文化館
  • 出版社:文学通信
  • 装丁:単行本(196ページ)
  • 発売日:2022-05-31
  • ISBN-10:4909658769
  • ISBN-13:978-4909658760
内容紹介:
としまえん、94年の卒業アルバム!大正15(1926)年に、現在の練馬区向山で開園した遊園地「としまえん」は、令和2(2020)年8月31日、多くの人々に惜しまれつつ94年の歴史に幕を閉じました。… もっと読む
としまえん、94年の卒業アルバム!

大正15(1926)年に、現在の練馬区向山で開園した遊園地「としまえん」は、令和2(2020)年8月31日、多くの人々に惜しまれつつ94年の歴史に幕を閉じました。
としまえんは、世界初の流れるプールや、日本初の本格的ダークライド「アフリカ館」の開設、機械遺産となった世界最古級の回転木馬「カルーセルエルドラド」の移設、斬新な広告展開など、常に時代の最先端をいき、遊園地の楽しさを多くの人々に発信してきました。
本書はとしまえんのあゆみを、練馬区立石神井公園ふるさと文化館で開催された企画展「思い出のとしまえん」をベースに、ポスターや写真など、さまざまな資料からたどります。

掲載図版400点以上、一世を風靡したポスター40点以上掲載。としまえ最後の事業運営部長内田弘氏の講演会「乗り物から振り返る『としまえん』」も収録。この講演は遊園地などの娯楽産業に携わる人には必読の文章です。小宮佐知子氏による「遊園地の歴史にみる豊島園の開園」では、遊園地の成立事情やその実態をつぶさに描き出します。

としまえんを愛するすべての人に。遊園地とは何かということを考えたいすべての人に。

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ALL REVIEWS 2022年5月31日

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