自著解説

『くみたて』(福音館書店)

  • 2022/06/15
くみたて / 田中 達也
くみたて
  • 著者:田中 達也
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(36ページ)
  • 発売日:2022-06-03
  • ISBN-10:4834086704
  • ISBN-13:978-4834086706
内容紹介:
分解された日用品をミニチュア作業員たちが組み立て、見立てます。身近な物が別のものに見えてくる驚きと面白さにあふれた写真絵本。
6月の新刊『くみたて』は、SNSを中心に多くのファンを持つ、ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也さん初めての絵本。「見立て」の力で、見慣れたものが全く別のものに見えてくる、想像力を広げる楽しさがいっぱいの作品です。絵本に込めた思いや「見立て」ることの楽しさ、そして作品作りの裏側まで、田中さんにうかがいました。
 

「見立て」の楽しみ
語り手・田中達也

―子ども向けに作品を作るうえで、意識された点は

やっぱり使う物ですね。見立てるモチーフは、小さい子どもでも分かる物、触ったことがある物がいいだろうなと思って。歯ブラシ、ピアニカ、海苔巻き……。うちの息子が対象年齢に近いので、ピンときやすい物を選んだつもりです。


見立てた後の風景が分かるかなというのも気にしましたね。例えば、眼鏡を飛び込み台に見立てている場面で、「飛び込み台って、そもそも知ってるの?」とか。高い所からプールに飛び込んでいる、ということは伝わるかなと思って、結果的には風景の中に入れましたが、そういう迷いはありました。逆に、親が教えてあげればいいかなと思った部分もあるんです。ふだん子どもと一緒に絵本を読んでいても、子どもたちに「これ何?」と聞かれることがよくあるので。


―「見立て」は、田中さんの作品の核になるものですが、『くみたて』では見立てる物自体を「組み立てる」という過程があるのが特徴的です。

今回、組み立てているところから見せよう、ということで絵本制作がスタートしたんですが、面白いなと思ったのは、分解されている物を組み立てるんだけど、できあがるのが「別のもの」というところ。歯ブラシの部品を組み立てる場面のあとに、完成した歯ブラシが出てくるかと思いきや、歯ブラシが「街灯」になった町が登場する……。ちょっとしたフェイクですよね。子どもが「何だよこれ」と突っ込みたくなるのがいいと思ったんです。この本のルールが分かってくると、組み立てたら「何ができるか」は分かるんだけど、今度は「何に見立てるか」を考え出しますよね。

 
僕が見立てを考えるときには、まず「形を簡略化」してみるんです。例えば「ロケット」に見立てるときは、「先がとがった細長い物」。そうすると、鉛筆もトウモロコシもロケットに見えてくる。『くみたて』に出てくるものだと列車。細長い物がいくつか並んでいれば、列車に見える。だったら、ほかのものでも列車ってできるんじゃない? なんて、絵本を読みながら親子で会話してもらえるといいなと思います。


―ご自身が子どもの頃も、見立てて遊ぶのがお好きだった?

遊ぶときに「見立て」って必要不可欠なんですよね。例えば、想像した街並みを作りたくても、全部をジオラマでそろえるのは難しい。だから、ティッシュの箱とか、家にある図鑑とかを重ねて、街みたいにしていました。最近だと、息子が「カーリングをやりたい」って言いだしたので、丸いお菓子の缶を貸したら、それを床に滑らせて遊んでいました。それもやっぱり、見立てですよね。「やってみたい!」と思っても、本物は手元にない。そんなとき、代わりにどうするか。親も協力しながら、「見立て」をうまく使って補えればいいと思うんです。


―この本を読んでくれる子どもたちに、伝えたいことは?

おもちゃがなくても、自分の頭で考えて、いくらでも遊べるんだよ、ということは伝えたいですね。「おもちゃ」っていわれる物だけじゃなくても、例えば食器を「円盤状の物」って考えれば、それを何にでも使える。以前、フリスビーがなかったので、プラスチックの皿を投げてみたら、めちゃくちゃ飛ぶんですよ(笑)。逆に、フリスビーでカレーを食べることだってできる。とらえ方次第で、どんどん広がっていくんです。


―絵本の中に出てくる食べ物は、本物を?

じつは、海苔を巻いている途中の海苔巻きと、ホットドッグのパン以外は、全部食品サンプルです。絞ってあるホイップクリームも全部サンプルを作ってるんですよ。

食品サンプルじゃない海苔巻きとパンは、撮影後にちゃんと食べました。

 
パンは、ホットドッグにするために、カットしないといけなかったんですよね。カットした食品サンプルを三つ作るのって、結構大変だなと。それに、パンは、撮影中に型崩れすることもないので、本物を使うことにしました。中に挟まってるレタスは、食品サンプルなんですけどね。撮影後は、もうカピカピに乾燥してたので、カットしてラスクにしたら、めちゃくちゃおいしかったです。乾燥したパンだからこそできる料理っていうのがあるなと(笑)。


―撮影で大変だったことは?

最後の〈絵本を山に見立てるシーン〉の撮影が一番大変でしたね。絵本に出てくるシーンをすべて登場させたので、遠近感を出すのが難しくて。違うジャンルのものを、ひとつの場面に入れるっていうのも、ふだんの作品にはあまりなかったので。

 
歯ブラシの撮影も意外と大変でした。歯ブラシを組み立てるときは、毛の束を真ん中で折り曲げて、V字にしたものを歯ブラシの頭の部分に金属で留めていくんですけど、毛のコシが強くて、それを自力で再現するのが難しかった。だから、束にしたものを一旦真ん中で切って、それをV字に接着しなおして……と、力技でやりました。あと、毛が透明なので、照明によってはうまく写らないんです。だから、毛がちゃんと写る照明と、全体を照らすときの照明を別々にしてみたり……。そういう大変さはありました。

 
―『くみたて』の中に登場している作業員の人形たちは、オレンジ色のオーバーオールを着ていますが、何か理由が?

ただ〈作っている人・作業員〉じゃなくて、あくまで〈自分で作りたいおじさん〉みたいな感じにしたかったんです。オーバーオールは、日曜日にちょっと張り切って家族のためになにか作る、といった服装だけど、工事現場っぽさもある。ちょっとおしゃれですしね。

あとは、最初の場面に出てくる洗濯ばさみもオレンジなので、全体のテーマカラーとして、オレンジで統一しようと思ったんです。通行人には、あまりオレンジ色を使わないようにして、オーバーオールの作業員に目が行くようにしました。後半になると、全体的にこまごまとなってきますけど、オレンジ色を追っていくと、組み立てている作業員たちをすぐ見つけられる。組み立てに使っている重機のミニカーの色も、オーバーオールのオレンジに合わせました。テーマカラーのオレンジを追いましょうっていう感じで。
 

―作業員たち以外にも、作品の中に出てくる人たちを見ていると、ストーリーが見えてきます。

人を配置するときは、まず大枠として、ここに人が集まるだろうな、という場所を何カ所か決めるんです。例えば遊園地だったら、観覧車の前に行列っぽく並んでたらいいなとか。その並んでる人たちは、二人連れだったり、グループだったりするよなとか。こんな風に、一部を固めてから、まわりに物や人を配置していく感じです。ひとりひとりについても、誰と何を話しているんだろうとか、どこに向かって歩いてるんだろうとか、そういうことを考えながら作っています。

 
[語り手]田中達也
ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。国内外で、「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」を開催中。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、日本橋高島屋S.Cオープニングムービー、2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画など。Instagramのフォロワーは350万人を超える(2022年2月現在)。著書に『MINIATURE LIFE』『Small Wonders』『MINIATURE TRIP IN JAPAN』『MINIATURE LIFE at HOME』など。
くみたて / 田中 達也
くみたて
  • 著者:田中 達也
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(36ページ)
  • 発売日:2022-06-03
  • ISBN-10:4834086704
  • ISBN-13:978-4834086706
内容紹介:
分解された日用品をミニチュア作業員たちが組み立て、見立てます。身近な物が別のものに見えてくる驚きと面白さにあふれた写真絵本。

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初出メディア

ふくふく本棚

ふくふく本棚 2022年6月1日

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