前書き

『[フォトミュージアム]プランクトンの世界:地球の生態系を支える海中の奇妙な宝石たち』(原書房)

  • 2023/06/26
[フォトミュージアム]プランクトンの世界:地球の生態系を支える海中の奇妙な宝石たち / エリック・ホイト
[フォトミュージアム]プランクトンの世界:地球の生態系を支える海中の奇妙な宝石たち
  • 著者:エリック・ホイト
  • 翻訳:野口 正雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:大型本(180ページ)
  • 発売日:2023-05-19
  • ISBN-10:4562072784
  • ISBN-13:978-4562072781
内容紹介:
水生の浮遊する生物=プランクトンの神秘的な姿とその魅力を、日本人を含む写真家たちが撮影し、海洋生物学者が解説するオールカラー図鑑。写真約160点。地球の生命を支える美しい海の宝石たちの姿をとらえた貴重な写真集。
美しい ! これらの写真が美しいのは実験室の顕微鏡下で撮られた写真ではなく、光の届かぬオープンオーシャンに潜り撮影した生態写真だからである。そこには生と死、競争と共生、ありとあらゆる関係性が垣間見られる。
──津田敦(東京大学大気海洋研究所教授、東京大学執行役・副学長)

本書の主役は「夜の動物プランクトン」です。彼らは昼間,深い所で息を潜めて捕食者を回避していますが、日没と同時に浅い所へ上昇して餌を摂食し始めます。この「日周鉛直移動」をする動物たちの生き様を見事に捉えた画期的な図鑑です。不思議な動物の形や色だけでなく、複雑な種間関係まで描き出しています。
──大塚攻(日本プランクトン学会会長)

漆黒の大海原で人知れず躍動するプランクトン。ときに微小で、ときに透明。神出鬼没にして、出没自在。そんな遠くて近い存在を我々に魅せてくれるのは、やっぱり“人”だった。これは、写真で見る浮遊生物と探究者たちの生き様図鑑だ
──鈴木香里武(幼魚水族館館長)

夜の海で輝く動物プランクトンの姿を日本人を含む写真家たちがナイトダイビングでマクロ撮影し、海洋生物学者が案内するユニークな生き物たちの世界を紹介します。160点あまりの美しい写真により、プランクトンの生態と魅力に迫る本書から「著者のことば」を特別公開します。


生態写真で見る海の小さな生き物たち

「移動、渡り、回遊」(マイグレーション)などの言葉を耳にして人々がよく思い浮かべるのは、ザトウクジラ、北極圏のカリブー、アホウドリ、オサガメなどの、毎年摂食地から繁殖地へと移動し、また戻ってくる動物たちだろう。だが地球上で最大の移動は毎夜2回生じているのだ。その動きは基本的に垂直(鉛直)方向に生じる。主役は海流の中を漂う生物であるプランクトン、また海流にあらがって自ら泳ぐことのできる小動物であるマイクロネクトンであり、そこにプランクトンの味を覚えてその後を追う魚、イカ、タコなどの捕食動物や取巻きが加わる。移動は毎晩、日の暮れるころに海中深くで始まる。夜間の移動を行っているのは、複雑な形、多彩な色、ほぼ透明か虹色にきらめいて閃光を放つ微小な生き物たちだ。こうした生き物たちが移動する中で、動物プランクトンは海中にいる小さな植物プランクトンなどのおいしいごちそうをかじり、しまいには互いに食い合いをするものもいる。食事は夜明けの直前に終わり、そのあとプランクトンたちは海の深いところへと戻って日中を隠れて過ごし、翌日の夕方になると再び海中を垂直に上っていく。

本書に登場する生き物のほとんどは、プランクトンと呼ばれる驚嘆すべき小さな幼生の浮遊生物であり、見方によって美しいものもいれば、ひどく奇妙なものもいる。夜の海の中には成体の生き物もおり、夜の闇に乗じてごちそうを食べにくる。雲のない満月の夜には、彼らは上昇する機会をうかがって少し深くにとどまるか、少し長めに待つこともあるが、そのうちに浮かび上がって食事を始める。このような浮遊生物は、食事をしつつも、自分が食べられるのを避けなければならない。夜なら、大きな眼とはるかに旺盛な食欲を持つ、腹を空かせた生き物たちに食べられる危険は減る。それでも夜には専門の捕食者がいる──あちこちを飛び回るイカ、触手を縦横にぶら下げて不注意な獲物を待ち受けるクラゲ、さらにはすべてを飲み込む口を持つウバザメや巨大なシロナガスクジラなどだ。


だが人間のブラックウォーター・ダイバーが登場するとすべてが変化する。強力なスポットライトのスイッチが入ると、突如として暗闇は消え去り、なにもかもが昼間と見まがうばかりに明るくなる。プランクトンの中にはすぐさま下降してその場を去るものもいる。だがその場にとどまるものや、ひたすら漂い続けるものもいる。光に魅惑されたのか、あるいは逃げるには腹を空かせすぎているのだろう。あるいはまだ昼のはずがない、まだ深みまで降りる時間のはずがないと思って食事を続けているのかもしれない。

ライトがまぶしく輝き、かすかなうなりを発する中で、カメラのレンズが伸び縮みし、流れの中ではためく爪ほどの大きさの姿を手の平で届く距離で捉える。ひとつ、またひとつ、それぞれの浮遊生物、つまりプランクトンがスポットライトの中で主役となり、動画や写真に収められる。口を開けているものもいれば、食べ物をつかまえようと触手を揺り動かしているものもいる。ここでは、プランクトンとダイバーはともに流れの中を漂い、海の中の生命のドラマの一部となっているのだ。

本書の主役は、夜に活動するプランクトンの生態と、その生態を明るみに出そうとしている写真家や研究者たちである。またそのようなプランクトンの成体や、プランクトンを食べる大小の捕食動物も少々わき役として出てくる。彼らはいずれも夜の住人たちだ。本書は、そのような写真家や研究者たちの知識、情熱、好意なくしては実現しなかっただろう。彼らは自らが夜の生き物となり、鉛直移動を、プランクトンたちとは逆の方向に行ってきた─日が暮れてから水中を下降し、真夜中、ときには夜明け近くになって上昇し、最後のダイビングを終えるのだ。いずれもこの驚嘆すべき夜の世界を探求し、写真に収め、学ぶためである。

[書き手]エリック・ホイト(生物学者)
1950年生まれ。科学者。人生の大半を海辺や海上で過ごし、クジラやイルカの調査研究と、海洋生物の保護に尽力してきた。MITで教鞭を執り、その後アメリカ国立科学財団NSFの博士研究員。IUCN SSC / WCPA海洋哺乳類保護地域タスクフォース共同議長。20冊以上の著書がある。
[フォトミュージアム]プランクトンの世界:地球の生態系を支える海中の奇妙な宝石たち / エリック・ホイト
[フォトミュージアム]プランクトンの世界:地球の生態系を支える海中の奇妙な宝石たち
  • 著者:エリック・ホイト
  • 翻訳:野口 正雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:大型本(180ページ)
  • 発売日:2023-05-19
  • ISBN-10:4562072784
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水生の浮遊する生物=プランクトンの神秘的な姿とその魅力を、日本人を含む写真家たちが撮影し、海洋生物学者が解説するオールカラー図鑑。写真約160点。地球の生命を支える美しい海の宝石たちの姿をとらえた貴重な写真集。

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