書評

『歌詞のサウンドテクスチャー:うたをめぐる音声詞学論考』(白水社)

  • 2023/09/23
歌詞のサウンドテクスチャー:うたをめぐる音声詞学論考 / 木石 岳
歌詞のサウンドテクスチャー:うたをめぐる音声詞学論考
  • 著者:木石 岳
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(342ページ)
  • 発売日:2023-07-01
  • ISBN-10:4560093458
  • ISBN-13:978-4560093450
内容紹介:
「この角度から「歌詞」が論じられることを、どこかでずっと待ち望んでました!」………ライムスター宇多丸(ラッパー/ラジオパーソナリティ)「これは空耳ではない。音声と歌詞のあいだで果て… もっと読む
「この角度から「歌詞」が論じられることを、どこかでずっと待ち望んでました!」………ライムスター宇多丸(ラッパー/ラジオパーソナリティ)
「これは空耳ではない。音声と歌詞のあいだで果てしなく成長してゆく「音声詞」。胸躍る冒険の書。」………細馬宏通(早稲田大学文学学術院教授)
YOASOBI、米津玄師、ADO、NewJeans……新時代のポップスがもっと楽しめる、「耳寄りな学問」にようこそ! オノマトペ、音象徴、ポケモン言語学など、最新の学術研究もふまえ、人気アーティストたちによる魔法のような「作詞術」をめぐり論考してゆく。言語学+音声学+認知心理学+脳科学=「音声詞学」の入門書。
宇多田ヒカルや椎名林檎をはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅ、King Gnu、KOHH、藤井風まで、その歌詞のサブリミナルな魅力も譜例とともに分析。
あのうたはなぜヤバいのか? きいてみればたしかにわかる、「音響論的転回」のすすめ。
巻末付録として、歌詞の取扱説明書・文献一覧・索引。譜面、図版、YouTube再生できるQRコードも多数収録。

[目次]
序章 音の織物
火星の音楽学者──言葉の響き
第一章 歌詞の響き
歌と歌以外の情報──言葉の意味/たくさんの「ん」とひとつの「ん」──発音と音素/歌詞の一卵性双生児──モーラと音節/アクセントとモーラという神話──赤とんぼからKOHHへ/失われた母音を求めて──無声化と音声詞/母音と子音の狭間で──ソノリティ・スコア
第二章 音象徴
可愛い音響兵器──PONPONPONの分析/音象徴と忙しい言語学者──プラトンとZeebra/結局、私は共感覚者なんですか? ──クロスモーダルな五感/錬金術──言語の音楽性と音楽の言語性/でも、意味のほうが大事ですよね?──詩的言語と流動的意図性
第三章 音響サブリミナル
無声閉鎖音が示すもの/風の音象徴──King Gnuと森山良子の摩擦音/音素の対立──宇多田ヒカルから/愛してるの響き──共感覚的なメタファー/ペンタトニックとブルーノートの言語──藤井風のまつり/音響サブリミナル──革命と摂食障害
第四章 音声詞とコンダライズ
音声詞(一)──意味からの脱出/音声詞(二)──体系化された音象徴、オノマトペ/音声詞(三)──交感的な歌とナンセンス/音声詞(四)──言語以下の歌/歌詞のコンダラ化──そして音声詞学となる
歌詞の取扱説明書/あとがき
索引/註記/参考文献

響きの美しさに注目 源探る

ポピュラー音楽には「歌詞を聴く」派と「聴かない」派の対立というのが昔からある。「歌詞を聴く」とはメッセージや意味を能動的に受け取る意識があるというほどのニュアンスだが、よくよく考えると、「聴いている」のではなく「読んでいる」んじゃないかとか足場が怪しくなっていく。

本書は、歌詞に特化した分析を披露したポピュラー音楽研究書である。とはいえ、手法と目的はきわめてユニークで、先行する試みもおそらくない。

その方法とは、音響の印象として歌詞を分析すること。著者自身は「音声詞学」と呼んでいる。「歌詞とはまずもって歌われるものであり、聴かれるもの」であるというのが認識の起点である。

「歌詞を聴かない」という人の耳にも、歌詞の音響は入っているし、言葉としても流れ込んでいる。このとき歌詞は、音楽を構成する響きの一部分であると同時に、それ自体が響きや抑揚を持つ言葉であり、それらが相互作用した結果の響きとして「歌詞の体験」はある。

まず歌われるものである歌詞の音響が生み出す効果や機能や意味を解析的に明らかにすること、それが著者の興味の向かう先なのだ。

想像するだに困難な探究である。だが著者は臆することなく歌詞の響きの深遠に分け入っていく。借り出す道具がまたすごい。音声学に認知心理学や神経科学、言語学による音象徴や共感覚、オノマトペ、音響詩の研究などなど。

こうした道具を手に、歌詞を音素のレベルにまで分解し、秘密を暴くべく突き進むのである。

マッドサイエンティストじみている。だが呆れたことに著者は研究者ではない。作曲家なのだ。

あとがきに動機が書かれている。「愛して、愛しておくれ/ぼくは君を愛してるよ」とビートルズは「ラブ・ミー・ドゥ」で歌った。

「このうんざりするほど単純でつまらない詩」がいざ歌われるとうっとりするほど美しく響くのはなぜか。その「印象」の謎を解き明かしたかったのだと。

前作『やさしい現代音楽の作曲法』は、現代音楽の作曲技法をマニュアル化した一冊だった。本作とは「実践」のための分析でもある点が通じている。なるほど本書もまた、表現者の「実践」のひとつなのだなと考えれば合点がいく。
歌詞のサウンドテクスチャー:うたをめぐる音声詞学論考 / 木石 岳
歌詞のサウンドテクスチャー:うたをめぐる音声詞学論考
  • 著者:木石 岳
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(342ページ)
  • 発売日:2023-07-01
  • ISBN-10:4560093458
  • ISBN-13:978-4560093450
内容紹介:
「この角度から「歌詞」が論じられることを、どこかでずっと待ち望んでました!」………ライムスター宇多丸(ラッパー/ラジオパーソナリティ)「これは空耳ではない。音声と歌詞のあいだで果て… もっと読む
「この角度から「歌詞」が論じられることを、どこかでずっと待ち望んでました!」………ライムスター宇多丸(ラッパー/ラジオパーソナリティ)
「これは空耳ではない。音声と歌詞のあいだで果てしなく成長してゆく「音声詞」。胸躍る冒険の書。」………細馬宏通(早稲田大学文学学術院教授)
YOASOBI、米津玄師、ADO、NewJeans……新時代のポップスがもっと楽しめる、「耳寄りな学問」にようこそ! オノマトペ、音象徴、ポケモン言語学など、最新の学術研究もふまえ、人気アーティストたちによる魔法のような「作詞術」をめぐり論考してゆく。言語学+音声学+認知心理学+脳科学=「音声詞学」の入門書。
宇多田ヒカルや椎名林檎をはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅ、King Gnu、KOHH、藤井風まで、その歌詞のサブリミナルな魅力も譜例とともに分析。
あのうたはなぜヤバいのか? きいてみればたしかにわかる、「音響論的転回」のすすめ。
巻末付録として、歌詞の取扱説明書・文献一覧・索引。譜面、図版、YouTube再生できるQRコードも多数収録。

[目次]
序章 音の織物
火星の音楽学者──言葉の響き
第一章 歌詞の響き
歌と歌以外の情報──言葉の意味/たくさんの「ん」とひとつの「ん」──発音と音素/歌詞の一卵性双生児──モーラと音節/アクセントとモーラという神話──赤とんぼからKOHHへ/失われた母音を求めて──無声化と音声詞/母音と子音の狭間で──ソノリティ・スコア
第二章 音象徴
可愛い音響兵器──PONPONPONの分析/音象徴と忙しい言語学者──プラトンとZeebra/結局、私は共感覚者なんですか? ──クロスモーダルな五感/錬金術──言語の音楽性と音楽の言語性/でも、意味のほうが大事ですよね?──詩的言語と流動的意図性
第三章 音響サブリミナル
無声閉鎖音が示すもの/風の音象徴──King Gnuと森山良子の摩擦音/音素の対立──宇多田ヒカルから/愛してるの響き──共感覚的なメタファー/ペンタトニックとブルーノートの言語──藤井風のまつり/音響サブリミナル──革命と摂食障害
第四章 音声詞とコンダライズ
音声詞(一)──意味からの脱出/音声詞(二)──体系化された音象徴、オノマトペ/音声詞(三)──交感的な歌とナンセンス/音声詞(四)──言語以下の歌/歌詞のコンダラ化──そして音声詞学となる
歌詞の取扱説明書/あとがき
索引/註記/参考文献

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2023年8月12日

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