移民の少年「アンドウマサト」を主人公にした『Masato』『Matt』に続く三部作の完結編だ。
マサトは父親の転勤で十二歳のときに日本からオーストラリアに移住し、差別やいじめにあいながら自分の居場所を探してきた。高校で演劇に出会い、大学でも映画のエキストラのバイトを続けるが、へんな日本人の役をやらされて苛立ち、文化盗用への無意識ぶりに怒っている。太平洋戦争時から続く日本人への憎しみは今も暮らしに時折浮上する。
あるときアルメニア人女性の人形作家と出会ったマサトは、「マイノリティー」としてのアイデンティティーを激しく揺さぶられることになる。豪州ではアルメニア人に比べたら日本人なんて「立派なマジョリティー」だと彼女に言われ、「そんなに(白人の)オージーになりたいの?」と詰られたりする。
私たちはダイバーシティー、マルティカルチャー、バイリンガルなどの「便利な言葉」を使って何かを語った気になりがちだ。異文化の真の共存とはどういうことか、アイデンティティーの確立と自由な生き方は本当に両立するのか、様々な問いを投げかける秀作である。