書評
『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)
古層に眠る自己動かす言葉
第54回文藝賞受賞作。話題の「玄冬」小説だ。玄冬、つまり、青春の対極。年を重ね、子育ても終わり、老いと向き合った女性の一人語りという形式をとっている。だがそう要約してしまうと、この小説の美点が消えてしまう。何よりも主人公の桃子さんが魅力的だ。74歳になる彼女は、15年前、夫の周造を亡くしている。悲しみの淵に沈み込む彼女の中に、「おら」という一人称が甦(よみがえ)る。「わたし」という衣装のような自分ではなく、自分の古層に眠っていた自己が動き出す。「喋れ、喋ってみろ」という声に押されるように、桃子さんは東北の言葉で語り出す。
見事な完成度の小説。生きる力に溢れているデビュー作。
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