前書き

『古代ギリシア・ローマの魔術のある日常』(原書房)

  • 2024/12/04
古代ギリシア・ローマの魔術のある日常 / フィリップ・マティザック
古代ギリシア・ローマの魔術のある日常
  • 著者:フィリップ・マティザック
  • 翻訳:上京 恵
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2024-09-25
  • ISBN-10:4562074663
  • ISBN-13:978-4562074662
内容紹介:
古代ギリシア・ローマ人の生活の中にあった魔術を文献と史実からひもとく。鏡リュウジ氏・推薦「理性」のギリシア、「技術」のローマ? 確かに。でも実は「呪術と魔術」のギリシア・ローマ… もっと読む
古代ギリシア・ローマ人の生活の中にあった魔術を文献と史実からひもとく。

鏡リュウジ氏・推薦
「理性」のギリシア、「技術」のローマ? 確かに。でも実は「呪術と魔術」のギリシア・ローマでもあるのです……

藤村シシン氏・解説
かつて、吸血鬼や魔法使い、死霊術師が世界には潜んでいた……

古代ギリシア・ローマの人々にとって魔術は身近なものだった。媚薬をつくり、気に入らない人に呪いをかけ、死者と対話し、悪霊から身を守る魔術や呪術は暮らしの中にあった。文献と史実からひもとく魔術的日常。



目次

まえがき 古代の魔術を知る

第一章 死者との対話
オデュッセウスとテイレシアス
死んだ息子を蘇らせた女性
死体を蘇らせる
冥界への入り口
ネクロマンテイオン
パムッカレの冥界の門
アウェルヌス湖
冥界訪問
幽霊
プリニウスからリキニウス・スラへの手紙

第二章 魔術師
魔女には何ができたか?
薬草学
医学的用法
惚れ薬

魔術の誘引物質と抑止物質
まじない、その他の呪文
「過激な」魔術
魔女は生まれつき? それとも育ち?
古代と神話の魔術師トップ5
第五位 空飛ぶ魔術師、シモン・マグス(後一二~六五頃)
第四位 きわめて危険な薬師、ロクスタ(後五~六九頃)
第三位 運勢占いで身代を築いた男、トラシュロス(?~後三六頃)
第二位 愛国的な豚を作ったキルケー(遠い過去~??)
第一位 最終的に九人以上を殺した魔女、メデイア(前一三〇〇~一二一〇頃)

第三章 愛と憎しみの魔術
媚薬
愛の食べ物
シマイタの魔術
敵対的魔術――「神霊」を呼び出せ!
エジプトから伝わったギリシアの呪文
憎しみの呪文――呪詛
黄泉の住人
冥界の神々
ハデス
プルトン、冥界の王
ペルセポネ
プロセルピナ
ヘルメス
メルクリウス
ヘカテー
トリウィア
神霊と本当に有害な霊たち
フリアイ
エリニュス
地下に棲んでいない神々
呪詛を補完する材料
カルデロスの敵による呪縛の呪文

第四章 魔術の生き物
吸血鬼(ラミア)など血に飢えた存在
夜空を飛ぶ者たち
ゾンビ
人狼
魔法の動物たち
魔術との関連

イタチ


魔法の種族
グリュプス
ハルピュイア
ドラゴン
フェニックス

第五章 闇の魔術からの防衛法
安らかに眠れぬ死者の日々
悪霊祓い
「邪視」
儀式の実行中に魔術を使う者の身を守る魔除け

第六章 未来の予見
神託所
予兆、凶兆、先触れ
腸卜占い
卜占


解説 藤村シシン

原注
参考文献
図版出典
古代ギリシア・ローマの人々にとって魔術は身近なものだった。媚薬をつくり、気に入らない人に呪いをかけ、死者と対話し、悪霊から身を守る魔術や呪術は暮らしの中にあった。文献と史実からひもとく魔術的日常を記した書籍『古代ギリシア・ローマの魔術のある日常』から、まえがきを公開します。

古代の魔術を知る

古代の魔術を学ぶためには、まずは「超常現象」のことを忘れよう。古代世界に超常現象というものはなかった。不可思議なものが存在しなかったからではなく、あらゆるものが不可思議だったからである。古代世界は神秘的だった。つまり「神の力にあふれていた」のだ。自然は魔術で満ちていた。花は魔術のように実に変わり、毛虫は魔術のように蝶に変身した。魔術によって雲に充満したエネルギーには、狙いすました雷の一撃で家を破壊できるほどの力があった。自然はまさに「超自然的」だった。ギリシア人やローマ人にとって「魔術」とは、求める結果を得るために自然の力を利用することだったのだ。

ドングリを植え、水と時間の力を利用してオークの木を作り出すのは、魔術のなせる業だった。だから、立派なオークの木(木の精〔ドリュアデス〕を備えたもの)を生み出せたなら、きっとどんな魔術師でも鼻高々だったに違いない。

もちろん、実行するために複雑な儀式や決まり文句を必要とする魔術もある。必ず成功するとは限らなかった――とはいえ、同じことはパンを焼く場合にも言える。古代人はイーストが何か知らなかったにもかかわらず、どうしたらパンをおいしく焼けるかは知っていた。魔術をかけるのも、パンを焼くのも、基本的な原理に変わりはない。材料を集め、適切な条件で混ぜ合わせ、それらが相互作用するのを期待に胸躍らせて待つ。材料のことはだいたい理解していても、それらがどんなふうに作用するかは理解していない。召喚する対象が乳酸菌ラクトバチルス・サンフランシセンシスであろうが、地下にいる「ヘルメスの霊魂」ヘルメス・トリスメギストス(三重の偉大なヘルメス)であろうが、そんなことは関係ない。どちらも魔術的な存在なのである。

世界はそんな存在だらけだった。庭一つ一つに何十もが棲息していた。あらゆる木には精が宿り、あらゆる池には精霊(ニュムペー)が棲み、海の精ネレイスたちは海辺の波間で戯れていた。それに加えて、現在ではありふれた動物と考えられている魔法の生き物がいた――イタチ、キツツキ、狼など。あらゆる自然の場所には、その地の雰囲気を生み出す自然の力、地霊ゲニウス・ロキがいた。魔術を実行するのに大切なのは、そういった力――神秘的で目には見えないが現実に存在している力――を利用できる能力を持つことだった。

だからこそ、「超常現象」を忘れることから始めるべきなのだ。しかし、古代世界における魔術を理解するに当たって、忘れるべきことはもっと多くある。現代の世界、とりわけ西洋では、目に見えない力を扱うのは長らく宗教の専売特許だった。けれども古代では、宗教の独占ではなかった。たいていの場合、宗教とは国家が推奨し市民が義務として奉じるもので、人間と神の間を取り持っていた。だが、神々を人間のように扱って、宇宙がどのように生まれてどんなふうに機能しているかを説明するのは、神話の役割だった。そして一般の人々は、目に見えないものと直接交流するために魔術を利用した。

古代とは、神々が人間と同じく空間と時間の産物である世界、人間が精霊や神々と話すのみならず、人間自身が神になることもある世界なのだ。要するに、あらゆることが可能である世界を想像すればいい。それが、古代という魔術に満ちた世界である。

こうした世界観は一見突飛に思えるかもしれないが、実はそうでもない。カオス理論や量子効果に関する最近の研究によれば、あらゆることが予測可能、理解可能なわけではない。「現実」は、我々が認識しているものとはまったく異なっているかもしれない。本書が探求しているのは、そうした「別の現実」の一つだ。惚れ薬を作ったり、呪いをかけたり、死者と話したりすることが可能な現実である。本書を読めば、邪悪な霊を見つけて追い払う方法、人狼や吸血鬼を避ける方法がわかるだろう。

とはいえ、何かのやり方を「知っている」からといって、それを「行うべき」というわけではないのは強調しておきたい。古代ローマ人は、庭でトリカブトを栽培する人間を見つけたら問答無用で殺した。この一見無害な植物からは、きわめて容易に猛毒を作り出せるからだ。古代人は、禁断の魔術を使っている疑いのある人間を即座に裁く――そして罰する――ことが多かった。それは、魔術を理解していないからでも、「超常現象」を恐れていたからでもなく、ある種の活動はそもそも反社会的、あるいは途方もなく危険であり、断固として阻止する必要があったからである。

今日でもそれは同じだ。ほとんどの西洋社会において、魔女や魔術師を自称するのは違法ではない。しかし今でも、魔術の中には、きわめて非合法的で、実践する本人や周囲の者にとって危険なものがある。たとえば、本書には古代人が神霊などの霊を冥界から呼び出した方法が書かれているが、読者諸君は決してそんな儀式を自宅で行わないでほしい。実験が失敗して、せいぜい時間とバケツ何杯分かの羊の血が無駄になる程度でおさまるかもしれない。だが最悪の場合は――成功するかもしれないのだ。

[書き手]フィリップ・マティザック(古代ローマ史研究者)
オックスフォード大学セントジョンズ・カレッジにおいてローマ史で博士号を取得。ケンブリッジ大学成人教育校のeラーニングコースで古代ローマ史を教えている。邦訳書に『古代ローマ旅行ガイド』『古代アテネ旅行ガイド』『古代ローマ帝国軍 非公式マニュアル』『古代ローマ歴代誌』『古代ローマの日常生活』がある。
古代ギリシア・ローマの魔術のある日常 / フィリップ・マティザック
古代ギリシア・ローマの魔術のある日常
  • 著者:フィリップ・マティザック
  • 翻訳:上京 恵
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(248ページ)
  • 発売日:2024-09-25
  • ISBN-10:4562074663
  • ISBN-13:978-4562074662
内容紹介:
古代ギリシア・ローマ人の生活の中にあった魔術を文献と史実からひもとく。鏡リュウジ氏・推薦「理性」のギリシア、「技術」のローマ? 確かに。でも実は「呪術と魔術」のギリシア・ローマ… もっと読む
古代ギリシア・ローマ人の生活の中にあった魔術を文献と史実からひもとく。

鏡リュウジ氏・推薦
「理性」のギリシア、「技術」のローマ? 確かに。でも実は「呪術と魔術」のギリシア・ローマでもあるのです……

藤村シシン氏・解説
かつて、吸血鬼や魔法使い、死霊術師が世界には潜んでいた……

古代ギリシア・ローマの人々にとって魔術は身近なものだった。媚薬をつくり、気に入らない人に呪いをかけ、死者と対話し、悪霊から身を守る魔術や呪術は暮らしの中にあった。文献と史実からひもとく魔術的日常。



目次

まえがき 古代の魔術を知る

第一章 死者との対話
オデュッセウスとテイレシアス
死んだ息子を蘇らせた女性
死体を蘇らせる
冥界への入り口
ネクロマンテイオン
パムッカレの冥界の門
アウェルヌス湖
冥界訪問
幽霊
プリニウスからリキニウス・スラへの手紙

第二章 魔術師
魔女には何ができたか?
薬草学
医学的用法
惚れ薬

魔術の誘引物質と抑止物質
まじない、その他の呪文
「過激な」魔術
魔女は生まれつき? それとも育ち?
古代と神話の魔術師トップ5
第五位 空飛ぶ魔術師、シモン・マグス(後一二~六五頃)
第四位 きわめて危険な薬師、ロクスタ(後五~六九頃)
第三位 運勢占いで身代を築いた男、トラシュロス(?~後三六頃)
第二位 愛国的な豚を作ったキルケー(遠い過去~??)
第一位 最終的に九人以上を殺した魔女、メデイア(前一三〇〇~一二一〇頃)

第三章 愛と憎しみの魔術
媚薬
愛の食べ物
シマイタの魔術
敵対的魔術――「神霊」を呼び出せ!
エジプトから伝わったギリシアの呪文
憎しみの呪文――呪詛
黄泉の住人
冥界の神々
ハデス
プルトン、冥界の王
ペルセポネ
プロセルピナ
ヘルメス
メルクリウス
ヘカテー
トリウィア
神霊と本当に有害な霊たち
フリアイ
エリニュス
地下に棲んでいない神々
呪詛を補完する材料
カルデロスの敵による呪縛の呪文

第四章 魔術の生き物
吸血鬼(ラミア)など血に飢えた存在
夜空を飛ぶ者たち
ゾンビ
人狼
魔法の動物たち
魔術との関連

イタチ


魔法の種族
グリュプス
ハルピュイア
ドラゴン
フェニックス

第五章 闇の魔術からの防衛法
安らかに眠れぬ死者の日々
悪霊祓い
「邪視」
儀式の実行中に魔術を使う者の身を守る魔除け

第六章 未来の予見
神託所
予兆、凶兆、先触れ
腸卜占い
卜占


解説 藤村シシン

原注
参考文献
図版出典

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
原書房の書評/解説/選評
ページトップへ