書評

『ジェンダーの社会学―女たち/男たちの世界』(新曜社)

  • 2017/07/29
ジェンダーの社会学―女たち/男たちの世界 / 江原 由美子
ジェンダーの社会学―女たち/男たちの世界
  • 著者:江原 由美子
  • 出版社:新曜社
  • 装丁:単行本(251ページ)
  • 発売日:1989-05-20
  • ISBN-10:4788503395
  • ISBN-13:978-4788503397
内容紹介:
◆ジェンダーの社会学◆ Do Sociology! 一見退屈な日常を異邦人のように感じる力を身につけることが「社会学する」面白さだ。ジェンダー=女と男の関係性という新鮮な切り口から若手社会学者が疾走する現代を解き明かす。身近な社会経験に即しつつ学べる楽しさが大好評。
ひからびた社会学にうんざりの、全国の学生諸君お待ちかねのテキストの、ついに登場だ。快挙である。これを読めなかった私の学生時代が口惜しい。

《社会学入門でもあり、読物としても面白い本。普通のごくささいな日常生活から、社会とは世界とは何かを考えられたら、きっともっと社会学が面白くなるだろう。……二転三転した議論の末、私たちは大冒険に乗り出した。「ジェンダーだけをモチーフにして、社会学の入門書を書いてみよう」》ー著者を代表して江原由美子さんは、こんなふうにのべているが、その思いは半ば以上達せられていると言えよう。

ジェンダーとは《生物学的な性別……と区別された、社会 ー 文化的性別》のこと。なおかつ、「ジェンダーの社会学」は、女性の視点にこだわるフェミニズムと一線を画す。《本当は、男性も女性も同じくらいにジェンダーに「囚われて」いる》のだから。本書は男女を問わず、自分の足もとから社会と人生を見つめ直すための、格好の水先案内だ。

さて、江原さんはじめ六人の執筆者が分担するのは、日常生活/政治社会/家族/労働/世界社会/感性リアリティ、の各章。社会学を学び始めたばかりの若い学生諸君が、自分の経験の範囲内で無理なく理解できるテーマを、ゆったりとカヴァーしている。文章の語り口も、著者からの個人的メッセージとして、読者に届くよう配慮してある。

この本で出色なのは、これまでの常識をくつがえし、知識は知識にすぎないと、コラムに追いやってしまったことだ。そうしたコラムや、キー・ワード、研究ノートといった囲み記事だけ拾い読みしても、ちゃんといまの社会学の輪郭が掴めるようになっている。そのかわりに本文では、社会学の考え方(リーズニング)を分かりやすく噛んで含めるように紹介してある。それも、集中力の限度を越えないように、数ページずつのブロックに区切って。参考文献、図表のあげ方も神経が行きとどいているうえに、柴門ふみさんのイラストが、若々しい感覚を随所にちりばめて、ページを繰るのがなおのこと楽しい。

――という狙い線が、手にとるようにわかって、それに共鳴した。実際の出来ばえを率直に言うと、各章ごとにばらつきがあり、全体の調整も必ずしもうまくいっていなくて、だいぶ改善の余地がありそうである。まだ工事中、ということだろう。

だが、それはそれとして、著者たちの挑戦の意気ごみは、やはり読者にもひしひしと伝わるはずだ。特に冒頭の数十ページは、映像的な手法が成功して、作品としても優れており一気に読ませる。本書がきっかけとなって社会学を見直す人びとの輪が広がり、やがて中級の読み物、一線の研究書へと、手が伸びていってくれればいいなあと、楽しい夢をみたくなる。

というわけで、教科書として今のところ、本書は他の追随を許さないが、これ一冊ですむかという問題もある。テーマや切り口の点で、社会学全体からみてバランスを欠いているのは確かだ。それが気になる人もいるだろうが、総花的に何でも取り上げ、著者の顔が見えないこれまでの教科書にくらべれば、断然こちらをとるのが正しい、と思う。ただ、本書を補う意味でも、別な方向へのかたよりをもった教科書が、真似でもいいからあと何冊か出てほしいのだが。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN-10:4874155421
  • ISBN-13:978-4874155424
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ジェンダーの社会学―女たち/男たちの世界 / 江原 由美子
ジェンダーの社会学―女たち/男たちの世界
  • 著者:江原 由美子
  • 出版社:新曜社
  • 装丁:単行本(251ページ)
  • 発売日:1989-05-20
  • ISBN-10:4788503395
  • ISBN-13:978-4788503397
内容紹介:
◆ジェンダーの社会学◆ Do Sociology! 一見退屈な日常を異邦人のように感じる力を身につけることが「社会学する」面白さだ。ジェンダー=女と男の関係性という新鮮な切り口から若手社会学者が疾走する現代を解き明かす。身近な社会経験に即しつつ学べる楽しさが大好評。

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初出メディア

週刊読書人

週刊読書人 1989年8月14日

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