書評

『老いと死のフォークロア―翁童論2』(新曜社)

  • 2017/08/02
老いと死のフォークロア―翁童論2  / 鎌田 東二
老いと死のフォークロア―翁童論2
  • 著者:鎌田 東二
  • 出版社:新曜社
  • 装丁:単行本(558ページ)
  • ISBN-10:4788503646
  • ISBN-13:978-4788503649
内容紹介:
現代ほど老いの聖性と死の尊厳の失われた時代もない。老いと死のイメージの変容をマンガ、映画、音楽、小説、神話等のなかにさぐり、の問題として大胆に提示。
『翁童論』の鎌田東二氏がまたもや自在な世界に読者を遊ばせる。『AKIRA』から『二〇〇一年宇宙の旅』、ユーミンや村上龍……に至るまで、豊富な素材をもとに《六〇年代後半から……はっきりしてきた…チの地殻変動》を、鋭利な筆致でえぐり出す(チとは氏によると、霊縁・血縁・地縁・知縁のこと)。

ところで鎌田氏は不思議な人だ。例えば《三島由紀夫の「霊」が私を動かしている》、《深夜、滝に打たれ……頭頂から意識体が抜け出して虚空中をすっ飛び……戸隠神社まで行き……戻ってきた》などさりげなく書いてあるのでギクリとさせられる。比喩や冗談でなくて大真面目なのだ。《「神々」や「霊」や「気」は疑いえないものとして厳存する》

よくいるオカルトマニアと氏がまるで違うのは、自分の霊的体験を、徹底した宗教批判へのバネとしている点。ここが不思議と言えば不思議なのだ。《あらゆる「宗教」を私は信じない》。そう断言してはばからない氏のリアリズムに、宗教学者としての気骨と信頼性を感ずる。

ところで、ここ二十年来の「チの地殻変動」を、鎌田氏はどう見るのか。

氏の診断によると、《異界を感知する能力が死に絶え》かかる一方、《異界を夢見る力が激発》してきたのが現在である。それは、電磁メディアに囲まれ、深夜のコンビニにたむろする青年たちの、救済願望なのかもしれない。

老人・幼児の両相を具有する存在、翁童。神話的想像力の媒体であり続け、異界への霊的喚起力をいまなおそなえているのが翁童である。おそらくそれは、鎌田氏の自己像でもあろう。この社会に帰属しきってしまうことを潔しとしない、霊性の自覚。

現代の高度な資本主義経済の裏側になお、古代に通ずる心性がぽかりと口を開けている。だから「フォークロア」が必要なのだ。古代の神話的思考はどのように変成して、われわれの心性にたどりついたのか。中世や近世の制度の堆積がそこにどう作用したのか。その解明への動機と糸口を本書は与えてくれている。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN-10:4874155421
  • ISBN-13:978-4874155424
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

老いと死のフォークロア―翁童論2  / 鎌田 東二
老いと死のフォークロア―翁童論2
  • 著者:鎌田 東二
  • 出版社:新曜社
  • 装丁:単行本(558ページ)
  • ISBN-10:4788503646
  • ISBN-13:978-4788503649
内容紹介:
現代ほど老いの聖性と死の尊厳の失われた時代もない。老いと死のイメージの変容をマンガ、映画、音楽、小説、神話等のなかにさぐり、の問題として大胆に提示。

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初出メディア

産経新聞

産経新聞 1990年4月3日

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