書評

『世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生』(みすず書房)

  • 2025/01/01
世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生 / アレックス・ライト
世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生
  • 著者:アレックス・ライト
  • 翻訳:鈴木 和博
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2024-06-05
  • ISBN-10:4622097028
  • ISBN-13:978-4622097020
内容紹介:
世界書誌、国際十進分類法、世界宮殿、そして「ムンダネウム」。知識ネットワークによる世界平和の実現に挑み、情報学の土台を築いた型破りな奇才の生涯。20世紀初頭、人類のあらゆる知識… もっと読む
世界書誌、国際十進分類法、世界宮殿、
そして「ムンダネウム」。
知識ネットワークによる世界平和の実現に挑み、情報学の土台を築いた型破りな奇才の生涯。

20世紀初頭、人類のあらゆる知識を収集して分類し、だれもが利用できるようにするという壮大な夢に取り組んだベルギーの起業家、平和活動家ポール・オトレ(1868-1944)。
国家主義が台頭するこの時代、オトレが同志アンリ・ラ・フォンテーヌと共にめざしたのは、世界的知識ネットワークによって世界をひとつにする、というヴィジョンの実現だった。
オトレたちは、世界中の出版物の情報を索引カードを用いて収集する巨大目録「世界書誌」の編纂に着手し、「国際十進分類法」を考案する。さらに、言葉や図、写真、映像やものなどあらゆる「ドキュメント」を収集・保管・編纂するための国際センター「世界宮殿」も具現化した。第一次大戦の後には、国際政府の拠点とすべく、国際図書館、大学、博物館、会議場、展示場をそなえた「世界都市(ムンダネウム)」を計画し、建築家ル・コルビュジエと協働を始める――。
同時代人M. デューイ、P. ゲデス、O. ノイラート、 H. G. ウェルズといった知のイノベーターたちとも交流し、最後に、一台の機械的集合頭脳として「ムンダネウム」を夢想し生涯を閉じたオトレは、インターネット時代の予見者であり、そしてまた未来を指し示す過去からの使者でもある。
時代を超越する型破りな理想主義者の人生と業績を紹介する、初の本格的評伝。


目 次

はじめに
第1章 バベルの図書館
第2章 迷宮の夢
第3章 ベル・エポック
第4章 マイクロフィルムの本
第5章 インデックス博物館
第6章 空中の楼閣
第7章 失われた希望と新たな希望
第8章 ムンダネウム
第9章 集合頭脳
第10章 輝く図書館
第11章 銀河間ネットワーク
第12章 流れに乗る
おわりに
謝辞

解説(根本彰)

参考文献
索引

ネット時代を予知した第一次大戦前

考えることの第一原則が「疑う」にあるとすれば、第二原則は「分ける」にあるとしたのはデカルトだが、十九世紀以後、出版物の飛躍的増加で人知の領域が拡大化すると、図書館にとってこの「分ける=分類する」が喫緊の問題となってくる。

ベルギーのイエズス会系中学に通う内向的な少年ポール・オトレは神父から図書目録の整理と作成を任されたが、そのときすでに「個人コレクションの精巧な分類法」について考え始めていた。読んだものは必ずメモを取り、ホルダーを使って整理していたからだ。

オトレの夢は十四歳年上の社会学者アンリ・ラ・フォンテーヌと意気投合して一八九三年に「国際社会学書誌協会」、二年後に「国際書誌協会(IIB)」を設立したことから実現に向かって進み始める。「膨大な時間をかけて書店目録や出版されている書誌集などを調べ、項目ごとに切りとって索引カードに貼りつけ、分類番号をつけて引出しに入れた」。分類には最初デューイの十進分類法をもちいたが、独自の分類法を考案するに至る。オトレが目指したのはより包括的・普遍的な仕組みで「文字、写真、図、録音といった複数の形態や、本、章、段落、文、さらにはそれ以上要約できない『事実』までのさまざまな意味レベルの知識に対応できるもの」だった。オトレは「人間の思考と表現の全領域」をカバーする「国際十進分類法(UDC)」という新分類法を模索したのである。

フォンテーヌがベルギーの上院議員になったこともあり、IIBは政府機関に準じる組織となる。

オトレたちの独創性は、人類の全知識は(1)事実(2)事実の解釈(3)統計(4)情報源という根源的なデータに分解できるという確信に基づき、データを整理し、順列組み合わせを可能にすることで「人工頭脳」の可能性を射程に入れたことにある。個々の著者の声は「装飾」と見なして取り除くのも現在の検索エンジンの先取りだった。コンピュータさえあればオトレの世界書誌は今日のビッグデータとなり得たのである。

二人は一九〇〇年パリ万博、一九一〇年ブリュッセル万博を最大限に利用して賛同者の輪を広げると、ベルギー政府から万博用地の施設を再使用する許可を得て、「あらゆる形態の人間の知識を無限に拡大できる記録場所」としての「博物館の博物館」、すなわち「世界宮殿(パレ・モンディアル)」の建設に邁進する。「オトレが思い描いたのは、いつの日か壮大な『人類のアーカイブの総体』ができ、世界書誌が『真の目録』になること」だった。カーネギーなどの資金援助もあり、オトレの夢は実現に向かって動きだし、世界都市計画、世界統一政府を構想するまでになる。「世界都市計画が具体化し、国際団体連合の加盟団体が150を超え、世界書誌の項目数は1000万件を突破した。この重要なときに、ヨーロッパが瓦解した」

そう第一次世界大戦の勃発である。オトレの夢は「世界都市」計画でル・コルビュジエとのコラボが実現するという例外はあったものの、それ以外はほとんどが潰え去り、やがてその名も忘れられた。

インターネット時代を予知した知られざる巨人の興味深い評伝である。
世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生 / アレックス・ライト
世界目録をつくろうとした男――奇才ポール・オトレと情報化時代の誕生
  • 著者:アレックス・ライト
  • 翻訳:鈴木 和博
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2024-06-05
  • ISBN-10:4622097028
  • ISBN-13:978-4622097020
内容紹介:
世界書誌、国際十進分類法、世界宮殿、そして「ムンダネウム」。知識ネットワークによる世界平和の実現に挑み、情報学の土台を築いた型破りな奇才の生涯。20世紀初頭、人類のあらゆる知識… もっと読む
世界書誌、国際十進分類法、世界宮殿、
そして「ムンダネウム」。
知識ネットワークによる世界平和の実現に挑み、情報学の土台を築いた型破りな奇才の生涯。

20世紀初頭、人類のあらゆる知識を収集して分類し、だれもが利用できるようにするという壮大な夢に取り組んだベルギーの起業家、平和活動家ポール・オトレ(1868-1944)。
国家主義が台頭するこの時代、オトレが同志アンリ・ラ・フォンテーヌと共にめざしたのは、世界的知識ネットワークによって世界をひとつにする、というヴィジョンの実現だった。
オトレたちは、世界中の出版物の情報を索引カードを用いて収集する巨大目録「世界書誌」の編纂に着手し、「国際十進分類法」を考案する。さらに、言葉や図、写真、映像やものなどあらゆる「ドキュメント」を収集・保管・編纂するための国際センター「世界宮殿」も具現化した。第一次大戦の後には、国際政府の拠点とすべく、国際図書館、大学、博物館、会議場、展示場をそなえた「世界都市(ムンダネウム)」を計画し、建築家ル・コルビュジエと協働を始める――。
同時代人M. デューイ、P. ゲデス、O. ノイラート、 H. G. ウェルズといった知のイノベーターたちとも交流し、最後に、一台の機械的集合頭脳として「ムンダネウム」を夢想し生涯を閉じたオトレは、インターネット時代の予見者であり、そしてまた未来を指し示す過去からの使者でもある。
時代を超越する型破りな理想主義者の人生と業績を紹介する、初の本格的評伝。


目 次

はじめに
第1章 バベルの図書館
第2章 迷宮の夢
第3章 ベル・エポック
第4章 マイクロフィルムの本
第5章 インデックス博物館
第6章 空中の楼閣
第7章 失われた希望と新たな希望
第8章 ムンダネウム
第9章 集合頭脳
第10章 輝く図書館
第11章 銀河間ネットワーク
第12章 流れに乗る
おわりに
謝辞

解説(根本彰)

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索引

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年11月23日

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