書評

『死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか』(河出書房新社)

  • 2017/08/26
死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか / クリストフ・ニック,ミシェル・エルチャニノフ
死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか
  • 著者:クリストフ・ニック,ミシェル・エルチャニノフ
  • 翻訳:坂田 雪子,竹若 理衣,長谷川 由布子,吉川 綾香
  • 監修:高野 優(監訳)
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(309ページ)
  • 発売日:2011-08-20
  • ISBN-10:4309245595
  • ISBN-13:978-4309245591
内容紹介:
相手がクイズでまちがえるたびに電気ショックを与えるよう命令される、過激な新番組が企画された-。殺してしまうかもしれない緊張のなか、テレビカメラの前で人間はどうなってしまうのか!?衝撃の心理実験ドキュメント。

視聴者への影響力、綿密に分析

これは、テレビの持つ危険性に警鐘を鳴らす、きわめて刺激的な本である。

現実の暴力事件に対して、しばしばテレビの暴力シーンの影響が指摘される。しかし、本書に描かれたテレビの恐ろしさは、そんな単純なものではない。結論は、〈テレビは人を殺す可能性がある〉という、衝撃的なものだ。

フランスのテレビマンと哲学者である2人の著者は、自らその危険性を検証すべく、S・ミルグラムが半世紀前に実施した有名な〈服従実験〉にならって、テレビの新しいクイズ番組を装い、設定を変えて同じ実験を行った。そのリポートが本書である。

解答者(になりすましたサクラ)が答えを間違えるたびに、出題者(クイズ番組と信じる被験者)はレバーを押して、相手に電気ショック(実際には通電されない)を与える。間違えるごとに電圧が高くなり、解答者はどんどん苦痛の色を増していく(ように演技する)。そうした状況下で、出題者はどこまでレバーを押し続けるか、という実験だ。

ミルグラムの実験では62・5%の被験者が、なんらかの葛藤を示しつつも、最高の450ボルトまで、レバーを押し続けた。ところが本書の実験では、なんと81%もの〈普通の人びと〉が、最高ボルトまで操作を続けた、という。これは、実際に通電したとすれば、死にいたる恐れのある強い電流で、それは被験者も承知していた。

学術実験ではなく、単なるテレビのクイズ番組で、人は司会者の指示に従い、レバーを操作し続けた。ナチスのような権威もない、単なる〈テレビというシステム〉の命令に、人びとは服従したのだ。テレビは視聴者に、なぜそうした強い影響力を、及ぼすようになったのか。

その分析結果は綿密で、ミルグラムのリポートよりも、分かりやすい。それだけに、恐ろしさはひとしおだ。
死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか / クリストフ・ニック,ミシェル・エルチャニノフ
死のテレビ実験---人はそこまで服従するのか
  • 著者:クリストフ・ニック,ミシェル・エルチャニノフ
  • 翻訳:坂田 雪子,竹若 理衣,長谷川 由布子,吉川 綾香
  • 監修:高野 優(監訳)
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(309ページ)
  • 発売日:2011-08-20
  • ISBN-10:4309245595
  • ISBN-13:978-4309245591
内容紹介:
相手がクイズでまちがえるたびに電気ショックを与えるよう命令される、過激な新番組が企画された-。殺してしまうかもしれない緊張のなか、テレビカメラの前で人間はどうなってしまうのか!?衝撃の心理実験ドキュメント。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2011年10月16日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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