書評
『犬から聞いた素敵な話 涙あふれる14の物語』(東邦出版)
対等な「家族」との絆つづる
ペットは家族。この言葉に違和感を感じる人より、何の疑問も感じない人の方が増えているのではないか。評者の家にも2匹の猫がいるが、対等な家族という想(おも)いが強い。ペットの家族化は、すでにいまの社会で進行している既成事実だ。単身世帯は増える一方。子どもの数ももちろん減っている。そんな中、ペットの数は年々増えているのだ。すでに15歳以下の子どもの人口をペットの数が超えて久しい。当然、ペットと人間の関係は、かつて以上に深いものになっている。
本書は「飼い主と愛犬とのキズナ」のエピソードを小説風に仕上げた短編集である。ペットを巡る感動の物語というよりも、現代の家族の絆についての物語といって過言ではない。
本書に書かれたいくつかのエピソードには心を打たれた。
東日本大震災で飼い主を失い、捨てられたと思ったのか極度に脅(おび)えるようになった犬のマックス。彼を都会の独り暮らしの女性が引き取る。ずっと「歩み寄り」がない可能性もゼロではなかったが、女性は信頼を得るため忍耐強く待った。2カ月を過ぎたある日、マックスは体重をあずけて横になってくれる。
こんな本書のエピソードは、著者が取材によって集めた実話。それを物語風に書き換えたという。完全な創作でもなければ、ルポルタージュでもない。そこが読みやすさや、感情移入のしやすさにつながっている。
だが犬の一人称で語られるエピソードには違和感を覚えた。犬が人の言葉を理解し、飼い主の想いに応える。
人間の想いを勝手にペットに仮託し、感動的な物語に仕立てるのは人間のエゴだ。これは評者がペットが好き過ぎるゆえの抗議だが、動物を人間の感動のために擬人化して欲しくない。動物は動物でいい。動物だもの。
朝日新聞 2013年9月29日
朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。
ALL REVIEWSをフォローする