書評

『ころ ころ ころ (幼児絵本シリーズ)』(福音館書店)

  • 2017/08/04
ころ ころ ころ / 元永 定正
ころ ころ ころ
  • 著者:元永 定正
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(24ページ)
  • 発売日:1984-11-22
  • ISBN-10:4834001113
  • ISBN-13:978-4834001112
内容紹介:
色々な色をした小さな玉が転がり出しました。一列に並んでころころ、ころころ。階段を上ってころころ、おりながらころころ。でこぼこ道をころころ、坂道もころころ。嵐の道で吹き飛ばされても… もっと読む
色々な色をした小さな玉が転がり出しました。一列に並んでころころ、ころころ。階段を上ってころころ、おりながらころころ。でこぼこ道をころころ、坂道もころころ。嵐の道で吹き飛ばされてもころころ、山道もころころ。ころころころころ終点までころころ……。色とりどりの鮮やかな丸の形が、絵本の上をところせましと動きまわります。小さな子どもたちが体でその動きを感じ、鮮やかな色の世界を楽しむことができる赤ちゃん絵本です。

ころころころころ転がって

  年末の銀座を行けばもとはみな赤ちゃんだった人たちの群れ

銀座に行くと、ちょっと寄ってみたくなる本屋さんがある。教文館の中にある「子どもの本のみせ・ナルニア国」だ。初めてここに来たのは、子どもが十カ月のころだった。

『じゃあじゃあびりびり』が気に入っているんですけど、次にどんな本がいいかなと思って……」と店員さんに相談すると、さっそく何冊か、おすすめのものを紹介してくれた。彼女のイチオシだったのが『ころ ころ ころ』。かわいい色の玉が、ころころころとひたすら転がっていくだけの絵本だ。

どのページも、基本の言葉は「ころころころ」。たまに「さかみち」とか「あかいみち」とかいう語がついている。これだけでは退屈するのではと思ったが、半信半疑で買うことにした。同じ作者の『がちゃがちゃどんどん』(福音館書店・八四〇円)という本が並んでいたので、同時にこれも購入、抽象的な絵に、「どんどん」「ざあー」などのオノマトペがついていて、これぞ『じゃあじゃあ……』の発展形という気がしたからだ。

どちらも、あっというまに子どもの心をとらえてくれた。読むほうとしては、『がちゃがちゃ……』のほうが、絵や言葉に変化があるので、読みやすい。が、一見単調に見える『ころころころ』にも、子どもの目は釘付けだ。

かいだんみち、でこぼこみち、あらしのみち……、ページが変わるたびに、カラフルな玉たちは、カラフルな道を、ころころころころ進んでいく。途中、崖のようなところから落ちるシーンがあって、子どもは何度でもどきどきする。そこでは、こちらも調子にのって「あっ、ああああー」などと叫(さけ)んでみたりする。階段では「よいっしょ」と言ったり、嵐(あらし)の道では「ひゅー、ひゅー」と吹き荒れてみたり。結局親のほうも、この不思議な絵本にのせられてしまったようだ。

一カ月後、子どもは嵐の道のページになると「ふーっ、ふーっ」と言うようになった。こうなると、もうそれが見たくて、何度でも読んでしまう。毎回、崖でどきどきしている息子と、毎回、嵐の道でわくわくしている私と。そう変わりはない。

最近、久しぶりにこの本を広げたら、二歳になった息子が意外なことを口にした。階段から落ちそうになっている玉を指さして「この子は……」と言うのだ。

「この子?」

一瞬言葉につまりつつ、気づかされた。そうか、子どもにとっては、ころころころころ進んでいくのは、ただの玉ではなくて、命を持った「この子」なのだ。

つまり、いろだまは主人公。とすると、ここに描かれたさまざまな道は、主人公の道のりということになる。これって、「物語」というものの原型ではないか。そう思って見直すと、退屈どころか、実に波瀾万丈(はらんばんじょう)の一冊なのだった。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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ころ ころ ころ / 元永 定正
ころ ころ ころ
  • 著者:元永 定正
  • 出版社:福音館書店
  • 装丁:単行本(24ページ)
  • 発売日:1984-11-22
  • ISBN-10:4834001113
  • ISBN-13:978-4834001112
内容紹介:
色々な色をした小さな玉が転がり出しました。一列に並んでころころ、ころころ。階段を上ってころころ、おりながらころころ。でこぼこ道をころころ、坂道もころころ。嵐の道で吹き飛ばされても… もっと読む
色々な色をした小さな玉が転がり出しました。一列に並んでころころ、ころころ。階段を上ってころころ、おりながらころころ。でこぼこ道をころころ、坂道もころころ。嵐の道で吹き飛ばされてもころころ、山道もころころ。ころころころころ終点までころころ……。色とりどりの鮮やかな丸の形が、絵本の上をところせましと動きまわります。小さな子どもたちが体でその動きを感じ、鮮やかな色の世界を楽しむことができる赤ちゃん絵本です。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2005年12月21日

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