書評

『はっけんずかん むし (はじめてのしぜん絵本)』(学習研究社)

  • 2017/08/17
はっけんずかん むし / 中村みつを
はっけんずかん むし
  • 著者:中村みつを
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:大型本(0ページ)
  • 発売日:1998-10-01
  • ISBN-10:4052010191
  • ISBN-13:978-4052010194
内容紹介:
林の中のかぶとむしやせみの仲間、くさむらのばったやこおろぎの仲間、土の中のありの仲間。夜と昼、季節の差でこんな違いが。ページ上のたくさんのとびらをひらくと、むしたちのわくわくする世界がのぞけます。〈しかけ付き〉

はじめての図鑑

一歳の夏、息子の一番好きな遊びは「散歩」だった。楽しみのひとつは、さまざまな虫に会えること。

「じゃんごむし(だんごむし)!」「あり!」「ばった!」「みみず!」……地味な虫ばかりだが、子どもの目は輝いている。

  箸(はし)はまだ持てない吾子(あこ)の右の手が我よりうまくバッタをつかむ

その様子を見て、図鑑を買ってみることにした。本格的な昆虫(こんちゅう)図鑑はまだ早いだろうが、あまりちゃちなのも気がすすまない。そこでオンラインショッピングのサイトで検索してみると、四百以上も出てきた。

パソコンの画面では、パラパラめくってみることができないのは残念だが、内容の紹介や、その本を買った人の感想が書かれていたりして、参考になる。

あれこれ迷って、『はっけんずかん「むし」』というのを注文することにした。買った人の評判がよく、内容もやさしそうだったからだ。

結果は、大正解。子どもは、図鑑を「むしごほん」と呼んで、飽きることなく眺めていた。散歩の途中で、めずらしく派手な虫をつかまえ、持ってかえったら「どうがねぶいぶい」という名前であることもわかった。どうがねぶいぶいは、息子がそれまでに覚えた単語で、一番長いものかもしれない。

気をよくした私は、またオンラインで『はっけんずかん「のりもの」』(小賀野実ほか監修、西片拓史絵、学習教育出版・一九七四円)というのも買ってみた。バスや電車にも、そろそろ興味を持ちはじめたころだ。

これも楽しい本だったが、さらにおまけがついた。表紙に大きな文字で「のりもの」と書いてあるのだが、これで息子は「の」という文字を覚えることができた。

のりもの 改訂版  /
のりもの 改訂版
  • 出版社:学研プラス
  • 装丁:大型本(1ページ)
  • 発売日:2015-12-01
  • ISBN-10:4052043308
  • ISBN-13:978-4052043307
内容紹介:
しかけをめくると、乗り物が動いたり、中の様子がわかったり。働く車、新幹線、船、飛行機など、いろいろな写真も満載。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

なんとなく私は、いつも本を開く前に「の、り、も、の」と言って表紙を指さしていたのだが、あるとき音と文字の結びつきが「はっ」とわかったようだ。「む、し」も同様に指さしていたのだが、なぜか「の」が入り口だった。もしかしたら「のりもの」に二回「の」があることが、「はっ」と明かりをつけるきっかけになったのだろうか。それとも、丸みを帯びたカタチが親しみやすかったのだろうか。そんな推理も、親の楽しみだ。

そして散歩に出てみると、世の中には実にたくさんの「の」がある。川のそばには「きけん! りこえないで」と柵(さく)があるし、ちょっとした看板や説明にも、「の」が登場する頻度(ひんど)は高い。息子は「の」を探す遊びにも熱中した。

この調子でいけば、ひらがながマスターできるかも、と、今度は『アンパンマンとあいうえお』(やなせたかし原作、フレーベル館・六八三円)という体系的な文字の絵本を買ってみたのだが(意外と教育ママ)これは時期尚早(しょうそう)だった。のりもの図鑑一冊で「の」の字一つを覚えるぐらいが、子どものペースなのだろう。

  子と我と「り」の字に眠る秋の夜の
  りりりるりりりあれは蟋蟀(こおろぎ)

アンパンマンとはじめよう!〈4〉アンパンマンとあいうえお / やなせ たかし
アンパンマンとはじめよう!〈4〉アンパンマンとあいうえお
  • 著者:やなせ たかし
  • 出版社:フレーベル館
  • 装丁:単行本(1ページ)
  • 発売日:2004-10-01
  • ISBN-10:4577028905
  • ISBN-13:978-4577028902

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。



【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

はっけんずかん むし / 中村みつを
はっけんずかん むし
  • 著者:中村みつを
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:大型本(0ページ)
  • 発売日:1998-10-01
  • ISBN-10:4052010191
  • ISBN-13:978-4052010194
内容紹介:
林の中のかぶとむしやせみの仲間、くさむらのばったやこおろぎの仲間、土の中のありの仲間。夜と昼、季節の差でこんな違いが。ページ上のたくさんのとびらをひらくと、むしたちのわくわくする世界がのぞけます。〈しかけ付き〉

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年3月23日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
俵 万智の書評/解説/選評
ページトップへ