書評
『世界のカマキリ観察図鑑』(草思社)
見れば見るほど、おもしろい!
私はカマキリがこわい。カマキリは四白眼の逆三角顔で酷薄な顔をしている。その上、こちらが何もしてないのに、武器をふりあげてくる。書いていて、私も理性的には、この文章がバカバカしいものだとは判(わか)るのである。カマキリがこわくない理性的な人は、カマキリの身長と人間の身長が、進撃の巨人とふつうの人間くらいに違う、という事実から考えはじめる。正しいと思う。
カマキリにサソリや、セアカゴケグモのような毒はないし、クマンバチやマダニみたいに刺したりもしないと思う。
私はおそらく、はじめてカマキリと遭遇した時に、至近距離で見すぎたのである。何もしていない、とこちらは思っていても、私だって進撃の巨人に至近距離で眼付けされたら、とてもメーワクである。
そこがわかれば『世界のカマキリ観察図鑑』の著者・海野(うんの)和男さんがその「生きざま」に感動するように、自分よりケタ違いにデカイ相手に対しても果敢に挑もうとするカマキリの心意気の方に注目できる。
自分が変わってみると、カマキリは、面白いしカワイイ。私が酷薄だと思っていた「四白眼」の瞳は、実は複眼の中にある偽瞳孔というものだそうだ。この偽瞳孔のあることで表情に味わいがでてくるのだ。
その威嚇のポーズの面白さとあいまって、ひょうきんなかわいらしさにだんだん理解が深まっていく。
海野さんは昆虫写真家であって、世界じゅうの、めずらしいカマキリの写真を撮った。
カマキリが大好きな人が撮ったカマキリの写真には、そのキモチが、そのままあらわれている。
いろんなカマキリがいるし、いろんな仕草をし、いろんな表情があり、びっくりするような変わった形をしているのがある。
ハナカマキリを、白い花の咲いてる木のあちこちにとめてみた写真は、だまっていたら、ただの花の写真にしか見えないどころか、何匹とまってるのかクイズになってるのを、当てられる人はまずいないだろう。
ハナカマキリのことは知っていたが、このように擬態するカマキリはほかにもあって、カレエダカマキリの擬態ぶりには、笑ってしまうくらいに感心した。
ペルーホソエダカマキリ、アフリカエダカマキリ、なんでこんな形になれるのか不思議だ。
枯れ葉に擬態してるカマキリもみごとなものだが、樹皮に擬態してるカマキリなんか、写真を見ても、どこにいるのかわからない。
ナンベイマルムネカマキリは、これも葉っぱに擬態しているのだろうが、そのカタチが愛らしい。
まえがきで、海野さんはこんなことを書いている。
カマキリはネコに似ていると思う。ぼくはネコも大好きだ。
いきなりこのように抜き書きすると、まるで謎のコトバだが、この本を見て、文章を読んだ人には、深くうなずける主張であるのがわかる。
とにかく、この本はスバラシイ。私はいまや、カマキリ好き、といっていいくらいだ。こんなに短時間に物の見方を変えてくれる本というのはすばらしすぎると思う。