書評
『死闘 昭和三十七年 阪神タイガース』(河出書房新社)
優勝へのドラマ 生きいきと
本書は、決して阪神ファンだけのために、書かれたものではない。現に著者自身が、阪神ファンだったのは2年間だけ、と白状している。この本は、2リーグ分裂以降初めて阪神が優勝した、昭和37年のシーズン戦を、克明に再現したもの。ただ単に戦績をたどるだけでなく、そこに展開された人間ドラマを、当時の新聞報道や回想記、インタビューなどによって、生きいきと再現する。小山と村山の、ライバル関係の裏話。名三塁手三宅秀史が、練習中に逸(そ)れ球を顔面に受け、結果的に野球生命を絶たれたいきさつ。阪神ばかりでなく、他球団の名選手、たとえば2日連続先発して、2試合とも完封した大洋の剛腕秋山の話など、今では信じられないような逸話が、満載されている。プロ野球のオールドファンには、こたえられない本だ。
当時のプロ野球にあって、今のプロ野球にないものは、当時の日本にあったのに、今の日本にないもの、とはまさに著者の至言。
朝日新聞 2012年6月17日
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