読書日記
角川春樹『わが闘争 不良青年は世界を目指す』(イースト・プレス)、遠藤徹『ケミカル・メタモルフォーシス』(河出書房新社)、武部隆『自閉症の子を持って』(新潮社)ほか
おれの「魂」は「スサノオノミコト(素戔嗚尊)」である。
最初のページから、この熱さッ!
きましたよッ! 出ましたよッ!
角川春樹『わが闘争 不良青年は世界を目指す』(イースト・プレス/一五〇〇円)、波乱の人生を熱く語る! 萌え、春樹萌えです!
こんな調子で書くと、ふざけていると思われるかもしれない。違う。
"常人が数パーセントしか活性化していないとしたら、今、おれの脳細胞は二〇パーセント近く覚醒している。"と、部分的に引用すると、トンデモな人? だいじょうぶ? そう思うかもしれない。
しかし、ぼくは本書を読んで、角川春樹の言うことを、全面的に信じました。春樹脳は覚醒している!
って、改行後は頭一字さげるという作文の基礎を忘れるぐらいに興奮しております。
(立ち話のおかんの手つきで)いんやぇ、もうね、凄いのよ。
ハワイで宇宙人と交信したこと。母をヒーリングで治したこと。人の脳にアクセスして「意志を持った宇宙の創造主」を垣間見たこと。二百人あまりの全学連の学生を一人で蹴散らしたこと。トパーズのような自分の魂を見たこと。
つぎつぎと繰り出される驚愕エピソード! 基本的に、ぼくは不可思議な現象をそのまま信じるタイプではない。だが……。
"自分を「歩く神社」のような存在だと思っている。つまり、おれが移動すると、そこに一種のおれの精神パワーの領域ができる。一緒にいる人たちが、UFOを見たり、あるいは、天狗や龍や鬼を見るなど、さまざまな心霊現象を体験したりするのは、おれのエネルギーの波動の影響を受けるからだ。" ありえるでしょ。ありかなしかって言えば、あり!
春樹精神領域では、これらはすべて真実だと、ぼくは確信した。それほど、この本は、熱い!
もちろん超常的なエピソードだけではなく、父との確執、文庫本を「読み捨て」の本へと改革していった過程、妹の死、服役中のこと、五回の結婚と離婚のこと、これからの角川春樹のことなど、読みどころだらけである。
句集の中で、おれは芭蕉を超えたと本人が語っていたのだが、その時は、そりゃ大きく出たなーと思ってしまった。だが、今は、その時の自分の不明を恥じる。
俳句は、句の中に二物を登場させてその衝突で味を生み出したりするのだけど、春樹の句はそんなものじゃない。春樹の句と、春樹の存在という二物が衝突し、凄まじい句に変化する。句という虚構と、春樹という現実が、宇宙を流転しつづけ、激突し、世界を完成するのだ。そういう句なのである。
と、ここまで書いたら、「自習室では、はしゃがないでください」と怒られた。知らない間に、はしゃいでいたみたい。ごめんなさい。
『姉飼』で第一〇回ホラー大賞を受賞した遠藤徹の新刊、『ケミカル・メタモルフォーシス』(河出書房新書/一六〇〇円)が出た。
今、われわれは何を体内に取り入れているのか? といったテーマのもと、「沈黙の春」を誤読するという宣言からはじまり、六〇年代アメリカにおける化学物質の問題、それによって人間がどのように変わっていくかを検証する。
と、いたってマジメな内容なんだけど、引用される具体例が、滅法おもしろい。
ネズミに注入器くっつけて、活性物質をごく微量にゆっくりと注入していく生体改造(サイボーグ化!)。軍事用として人間に装着する巨大なエビのような甲羅(モビルスーツもどき!)の開発など。人造人間ヒーローもの開発内幕を読むような楽しみ方も可能。
精神変容物質とサイケデリック文化の章は、薬物によって異能力が身につくSF話だし、食や農業のインスタント化の章は、徹底的に管理されたディストピアものを読んでる気分だ。
って、それらすべてが現実の出来事であり、今の自分たちの食の問題でもあることに、ふと気がつくと、なんとも嫌な恐怖感が身体の中にふくらんでくる。
"食べるも、食べないもあなたの自由だ。ぼくたちは、すべて了解済みで自分への接続を行うのだから"。でも、本当に了解しているんだろうか? 目隠しのまま、それを食べるかどうかの了解を求められているような気持ち悪さが日々の食事にはないか?
人間や世界が、化学物質によって変わっていく現状を示すこれらのテキストは、『姉飼』が見せたビジョンの論考版と(強引に)誤読することもできるだろう。
武部隆『自閉症の子を持って』(新潮社新書/六八〇円)は、自閉症児の父による手記。専門医の数がぜんぜん足りないこと、用語や概念が曖昧で確定していないこと、当てにならない福祉、親としての自分の心、さまざまな問題を、客観的に伝わるよう努めながら誠実に綴っている。
ここに登場する幼稚園がとても素敵。運動会の駆けっこに、車椅子の園児も一緒に走る。先生が押して走るのだ。そして、その子が一等賞になって、みんな大喝采。「先生が押しているのに一等賞をやるのは不公平だ」などといった文句はどこからも出ない。この幼稚園だけじゃなく、社会全体が、そうなってほしいと心から願う。
坂井優基『パイロットが空から学んだ一番大切なこと』(インデックス・コミュニケーションズ/一五〇〇円)は、国際線ジャンボジェットの機長が書いたビジネスのヒントブック。
「ジャンボジェット機の燃料は、多ければ良いってもんじゃない。燃料が多いと機体が重くなる。重くなると、離陸や着陸に必要な滑走路の長さがのびる。燃料が多すぎて、着陸で滑走路の長さが足りなくて降りられないという笑えない事態だって起こるんだ。だから、おまえもチームリーダーとして、必要なだけの経費をな……」と、ビジネス教訓たとえ話としても使えるネタ満載ですよ、部長!
石川雅之の漫画二冊を紹介。
『もやしもん』(講談社/五三三円)は、菌が見える不思議体質の沢木直保が農大に入学して、とんでもない教授(アザラシの漬け物とか作ってる!)や仲間たちと繰り広げる菌騒動物語。何種類も登場する菌キャラが、かわいい。菌博士、発酵食品博士になれます。もう一冊は『人斬り龍馬』(リイド社/五二四円)。大胆な新撰組解釈の表題作など、幕末もの中心の短編集。ぐっとくる。
【この読書日記が収録されている書籍】
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