書評

『植物的生命像―人類は植物に勝てるか?』(講談社)

  • 2017/09/05
植物的生命像―人類は植物に勝てるか?  / 古谷 雅樹
植物的生命像―人類は植物に勝てるか?
  • 著者:古谷 雅樹
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(243ページ)
  • ISBN:4061328271
内容紹介:
もし植物が地球から消えると、人類をはじめすべての動物は食物を失って、数カ月経たないうちに絶滅することになる。一方、人類が絶えても植物は痛痒をまったく感じないのだから、この勝負の結末はすでに明らかである。しかし、植物は動物のような行動力もないし物もいわないで受け身に暮らしているので、おごれる現代の人間は植物的生命の本質をなかなか理解しようとはしない。技術の暴力によって地球が崩壊する前に、いまや人類も「自奏の秩序に素直に従って生きる植物の生き方」を見直し学ぶときが来たのではないだろうか。

他を殺す動物と自ら枯れる植物

”地球”とか”生命”とかいった領域への関心がこのところにわかに高まっているが、この本、古谷雅樹『植物的生命像』(講談社プルーバックス)もそうした関心にこたえてくれる一冊である。

生命現象は未知のことがあまりに多く、それだけにあやふやな言説も世間には出回っているが、この本の著者は東大の小石川植物園の園長も務めたことのある一流の植物学者だから、内容については安心して読める。

面白い話が次々に登場するが、そのうちからいくつかを紹介しておこう。

①動物と植物は共に細胞からなるが、その細胞の性格がとても違っていて、植物は葉の先のただ一つの細胞でもいいからとってきて培養するとそこから元の植物が再生するが、動物の場合はありえない。この差がなぜ生ずるかについてはまだ解明されていない。

②植物の葉が緑色に見えるのは、葉の中の葉緑素が光合成の時に、七色の光のうち緑以外の光を吸収して光合成に役立て、緑は吸収せずにはね返すからである。つまり、われわれが生命現象を象徴する色だと思っている緑は、実は生命現象に役立たなかった色なのである。緑は生命のカス。

③食物連鎖の中では植物は動物に食べられる。エネルギーからいうと、太陽エネルギーが植物によって固定され、それを動物が食べる、ということだが、各階段のエネルギー量をみると、植物の葉の面に注いだ太陽エネルギーのうち取り込まれるのはわずかニパーセントにすぎず、このうち半分は植物自身が呼吸に使い、あとの半分が動物や微生物の餌となる。

④植物には肛門がない(この指摘は鋭い)。動物は植物のように自分でエネルギーを生産(光合成)できないから植物を食べ、その結果として排泄作用が起こる。動物は役に立たない部分を捨てる(排泄)ことで生命を保つが、植物はそういう姑息なことはせず、自分自体が役に立たなくなったら枯れるのみ。動物は他殺的で、植物は自殺的。

以上のような話が次々と登場する。

【この書評が収録されている書籍】
建築探偵、本を伐る / 藤森 照信
建築探偵、本を伐る
  • 著者:藤森 照信
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(313ページ)
  • 発売日:2001-02-10
  • ISBN:4794964765
内容紹介:
本の山に分け入る。自然科学の眼は、ドウス昌代、かわぐちかいじ、杉浦康平、末井昭、秋野不矩…をどう見つめるのだろうか。東大教授にして路上観察家が描く読書をめぐる冒険譚。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

植物的生命像―人類は植物に勝てるか?  / 古谷 雅樹
植物的生命像―人類は植物に勝てるか?
  • 著者:古谷 雅樹
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(243ページ)
  • ISBN:4061328271
内容紹介:
もし植物が地球から消えると、人類をはじめすべての動物は食物を失って、数カ月経たないうちに絶滅することになる。一方、人類が絶えても植物は痛痒をまったく感じないのだから、この勝負の結末はすでに明らかである。しかし、植物は動物のような行動力もないし物もいわないで受け身に暮らしているので、おごれる現代の人間は植物的生命の本質をなかなか理解しようとはしない。技術の暴力によって地球が崩壊する前に、いまや人類も「自奏の秩序に素直に従って生きる植物の生き方」を見直し学ぶときが来たのではないだろうか。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

週刊朝日

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