書評
『植物的生命像―人類は植物に勝てるか?』(講談社)
他を殺す動物と自ら枯れる植物
”地球”とか”生命”とかいった領域への関心がこのところにわかに高まっているが、この本、古谷雅樹『植物的生命像』(講談社プルーバックス)もそうした関心にこたえてくれる一冊である。生命現象は未知のことがあまりに多く、それだけにあやふやな言説も世間には出回っているが、この本の著者は東大の小石川植物園の園長も務めたことのある一流の植物学者だから、内容については安心して読める。
面白い話が次々に登場するが、そのうちからいくつかを紹介しておこう。
①動物と植物は共に細胞からなるが、その細胞の性格がとても違っていて、植物は葉の先のただ一つの細胞でもいいからとってきて培養するとそこから元の植物が再生するが、動物の場合はありえない。この差がなぜ生ずるかについてはまだ解明されていない。
②植物の葉が緑色に見えるのは、葉の中の葉緑素が光合成の時に、七色の光のうち緑以外の光を吸収して光合成に役立て、緑は吸収せずにはね返すからである。つまり、われわれが生命現象を象徴する色だと思っている緑は、実は生命現象に役立たなかった色なのである。緑は生命のカス。
③食物連鎖の中では植物は動物に食べられる。エネルギーからいうと、太陽エネルギーが植物によって固定され、それを動物が食べる、ということだが、各階段のエネルギー量をみると、植物の葉の面に注いだ太陽エネルギーのうち取り込まれるのはわずかニパーセントにすぎず、このうち半分は植物自身が呼吸に使い、あとの半分が動物や微生物の餌となる。
④植物には肛門がない(この指摘は鋭い)。動物は植物のように自分でエネルギーを生産(光合成)できないから植物を食べ、その結果として排泄作用が起こる。動物は役に立たない部分を捨てる(排泄)ことで生命を保つが、植物はそういう姑息なことはせず、自分自体が役に立たなくなったら枯れるのみ。動物は他殺的で、植物は自殺的。
以上のような話が次々と登場する。
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