前書き

『イギリス王立植物園キューガーデン版 世界薬用植物図鑑』(原書房)

  • 2021/08/12
イギリス王立植物園キューガーデン版 世界薬用植物図鑑 / モニク・シモンズ,メラニー=ジェイン・ハウズ,ジェイソン・アーヴィング
イギリス王立植物園キューガーデン版 世界薬用植物図鑑
  • 著者:モニク・シモンズ,メラニー=ジェイン・ハウズ,ジェイソン・アーヴィング
  • 翻訳:柴田 譲治
  • 出版社:原書房
  • 装丁:ハードカバー(224ページ)
  • 発売日:2020-05-13
  • ISBN-10:4562057386
  • ISBN-13:978-4562057382
内容紹介:
薬用植物の5000年の伝統に現代的視点を加え、薬理効果とともに、薬草をガーデニングにとりいれる情報も掲載した最新の植物誌。
重要な薬剤の多くは植物に由来し、まだ発見されていない薬草や薬効はさらに多く存在する。オールカラーで最新の植物誌を伝える本書『世界薬用植物図鑑』では、人類が薬用植物を記録してきた5000年の伝統に現代的視点をくわえ、植物の薬理効果とともに、薬草をガーデニングにとりいれる情報も掲載。そのなかから、序文を特別公開する。
 

花壇の植物に広がる無限の可能性

本書の目的は伝統医療で用いられている植物の知識をガーデナーのみなさんにお伝えすること。草本植物や顕花植物、灌木や樹木など幅広い生育特性をもつ植物をとりあげ、また陽射しの強い地中海沿岸の岩山から寒冷で湿気の多い湿地土壌にいたるまで生息環境の面でも広範な環境に生育する植物を収めた。見た目に美しい植物もあれば、雑草にしかみえないものもある。しかしどれも薬用植物として役立つものばかりだ。ガーデナーのみなさんの花壇の一角にも、こうした薬用植物の姿がみられるようになればと願っている。

推定で30万から40万種あるといわれる世界中の陸上植物のなかで、薬用に用いられているのは3万5500種。これほど多くの植物のなかから本書に収録する植物を選んだ基準は、薬用に利用されてきた長い歴史があること、そのうえでできれば新薬発見に向けた科学的研究の対象となっている植物ということになる。

また用途が特定の疾患に偏ってしまわないように、掲載した植物が全体で幅広い疾患をカバーできるように心がけた。なお薬学研究をとおしてすでによく知られ有名な、ニチニチソウCatharanthus roseusやジギタリスDigitalispurpurea、セイヨウイチイTaxus baccataなどは収録していない。

西洋医療でも20世紀以前までは、薬用植物が大きな役割を果たしていた。最近になって欧米でもかつての薬用植物への関心が復活しつつあるが、アフリカや南アメリカ、アジアでは現在も薬用植物が「プライマリ・ヘルス・ケア」つまり初期診療で重要な役割を果たしている。

しかし薬用植物を適切に利用するには、その植物の安全性と効能にかんする理解が欠かせない。そうした知識がなければ、特定の症状に対してもっとも有効な植物はなにか、どんな植物と組みあわせられるのか、あるいは組みあわせてはいけないのか、また現代の処方薬と合わせて服用できるのかについて、確かな判断をくだすことはできない。さらにさまざまな病気にかんする医学的知識を身につければ、適切な利用によってさまざまな疾患の症状を緩和できる数多くの薬用植物が存在することにも気づけるようになるだろう。

本書の中核を構成するのが学名をアルファベット順にならべた薬用植物ガイドで、とりあげた277の植物すべてにイラストを配し、各植物にかんする簡単な解説をつけた。このガイドにより薬用植物にかんする非常に多様な知識が得られる。おのおのの植物には一般名とともに二名法(属名の後に種名を記載)によるラテン語の学名も示し、薬用となる植物の部位も記している。

「伝統的利用」と「科学的評価」のコラムでは、薬用植物の歴史と現代における評価について若干の情報を提供した。「伝統的利用」では薬用植物がヨーロッパや南北アメリカそしてアジアでこれまでどのように利用されてきたかがわかる。ジョン・ジェラード(16世紀)やニコラス・カルペパー(17世紀)といった初期のハーブ療法家(ハーバリスト)の言葉も引用した。「科学的評価」のコラムでは実際の薬剤としての利用や、利用可能性にかんする科学的評価について記した。

植物によっては、科学的研究から疾病に有効であることが説明できたものもあるが、一般的には伝統的利用が有効だとする臨床データは不足している。一部の植物については、その薬効あるいは用途に寄与していると考えられる化学物質についても解説した。

24の植物についてはよりふみこんだ解説をし、読者自身が植物ベースの治療薬を作れるように簡単なレシピを提供している。これら24の植物は、その利用に長い歴史があり、十分に裏づけのあるものから選んである。

現代における薬草利用とともに、中国医学やインド医学などさまざまな伝統医療にも光をあてている。また植物保全と植物にふくまれる化合物の重要性、さらに新薬を発見するうえでの植物の重要性についても概説した。

本書全体をとおして、数少ない初期の著名なハーブ療法家であるジョン・ジェラードとニコラス・カルペパーに言及している。薬用植物の知識を収集したこうしたハーブ療法家たちの役割についても簡単に解説した。

 

家庭でできるハーブ治療薬のレシピ


庭に生えている植物もハーブ治療薬として利用できる可能性があるということを、読者のみなさんに気づいてもらいたい。またハーブティーやチンキ剤、オイル、クリームの作り方も身につけてほしい。

本書に掲載した24のレシピは、ハーブ療法で用いる薬草のさまざまな調整法を見渡せるように考えてある。準備は簡単で、材料を切ったり煮たりする初歩的な調理ができればだれにでもできる。利用する植物に適したレシピを用意したが、もちろん掲載したレシピのほかにもさまざまな調整法が可能だ。

レシピには少量のハーブ治療薬を作るための分量が示されているが、全体の量を2倍にしたければ各材料を2倍に増やすだけでいい。

ハーブ治療薬のほとんどのレシピは植物を乾燥させなければならない。乾燥させる理由は、植物の重量の約70パーセントは水分なので、そのままでは抽出成分が薄められ、腐敗もしやすくなるからだ。

薬草やその根を乾燥させる方法について手順を追って説明した。エキスが抽出できたら植物材料の残りかすはとりのぞく。エキスを取り扱いやすくすると同時に、腐敗のリスクを減少させるためだ。それには漉し布を使って植物の小さな残渣までていねいに漉しとる。

必要な台所用品はジャム作りで利用するものと同じ。ボール、片手鍋、スプーン、はかり、漉し布、ファンネル、そして保存用の密閉できる瓶類。調理器具は乾燥した清潔なものを使い、保存用の瓶は使用前にかならず殺菌する。

ほとんどの材料は読者の庭や地元のお店で手に入る。レシピのなかには専門的な材料や道具が必要な場合もあるが、幸いなことに今ではインターネットで購入可能だ。

家庭で乾燥させたハーブや手作りハーブ治療薬のチンキ剤やシロップを長期間保存するには、太陽光が入らない気密容器に入れておくのが理想だ。色の濃いガラス瓶での保存がいちばんのおすすめだが、治療薬を日常的に利用する場合はすぐに使いきれるので、透明のガラス瓶でも問題ないだろう。

本書に掲載した手作りのオイルとクリームは、市販のハーブ薬やハーブ化粧品と違いさまざまな保存料は入っていない。そのため劣化しやすいし保存期間も短い。こうした手作りオイルなどをなるべく長期間新鮮に保つには、冷蔵庫で保存する。保存料としてビタミンEを添加してもいい。

手作りのハーブ治療薬には使った材料と調整した日付を記したラベルを張っておくことが大切だ。食器棚の奥のほうから出てきた奇妙な臭いの液体がいったいなんだったのか、すぐに忘れてしまうからだ。

 

ハーブ治療薬を使用する際の注意


本書に掲載した24の治療薬には、安全に利用されてきた長い歴史がある。しかし植物に対する反応は人によってさまざまなので、はじめて利用するハーブ治療薬については、少量で1回だけ試用してみること。

たとえば少数だがキク科(Asteraceae)の植物に対してアレルギー反応を起こす人がいる。その人がキク科植物のハーブ治療薬を使用すれば皮膚のかゆみやかぶれ、吐き気を起こす。

ハーブ内服薬の場合は1回だけ服用し、最低でも1日は異常な症状が出ないかようすを見る。外用(局所用的に用いる)ハーブ治療薬はかならずパッチテストをすること。クリームやオイルを皮膚の小さい面積にぬり、なんらかの反応が出ないか数時間ようすを見る。

本書に示した処方量は健康体の平均的な成人に対する量であることにも注意してほしい。

ハーブ治療薬の利用にあたっては、服用中の薬との相互作用に注意をはらい、なにか変だと感じたらただちにハーブ治療薬の使用を中止し医師に助言を求めること。症状が重かったり症状が治まらない場合はかならず医師に診てもらうこと。妊娠中あるいは授乳期間であったり、内科的疾患やなんらかの薬物治療を受けている場合は、本書のハーブ治療薬を使用する前に医師に相談すること。

本書は医療マニュアルではなく、自己診断および自己治療の指導を目的としたものでもありません。

[書き手]モニク・シモンズ(キュー王立植物園科学部副部長)
イギリス王立植物園キューガーデン版 世界薬用植物図鑑 / モニク・シモンズ,メラニー=ジェイン・ハウズ,ジェイソン・アーヴィング
イギリス王立植物園キューガーデン版 世界薬用植物図鑑
  • 著者:モニク・シモンズ,メラニー=ジェイン・ハウズ,ジェイソン・アーヴィング
  • 翻訳:柴田 譲治
  • 出版社:原書房
  • 装丁:ハードカバー(224ページ)
  • 発売日:2020-05-13
  • ISBN-10:4562057386
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