書評

『夜明け遠き街よ』(東京創元社)

  • 2017/07/01
夜明け遠き街よ / 高城 高
夜明け遠き街よ
  • 著者:高城 高
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(297ページ)
  • 発売日:2012-08-11
  • ISBN-10:4488024971
  • ISBN-13:978-4488024970
内容紹介:
クラブ経営を夢見るホステスが巻き込まれた奇妙な事件、地上げ騒動の陰に暗躍する女、望むものはすべて手に入れられる実業家のとてつもない浪費の顛末、そしてその莫大な金に群がる政治がらみの男たち-。1980年代、空前の好景気に沸く札幌ススキノ。東京以北最大の歓楽街で繰り広げられる、男と女の群像劇。

バブルのススキノ、精細に描写

高城高は、1990年代半ばに死去した大藪春彦とともに、日本のハードボイルド小説の始祖、と認められている。

もっとも、大藪と違って高城は大学卒業後新聞社に就職し、十分な創作活動ができなかった。そのため、休筆期間がずいぶん長く、執筆を再開したのはようやく、2007年になってからのことだ。とはいえ、長年のブランクを感じさせぬ円熟した小説世界は、昨今の作家にない独特の厚みを持つ。当然のように、伝統的なハードボイルド小説のファンは、諸手(もろて)を上げてそのカムバックを歓迎した。

本書は、バブル期の札幌ススキノを舞台に、いわゆる黒服の世界をヴィヴィッドに描いた、ヌーヴェル・ノワールである。キャバレー〈ニュータイガー〉の副支配人、黒頭悠介(くろずゆうすけ)を主人公に、札びらの飛び交うススキノの夜の世界を描いて、間然するところがない。時代考証、風俗考証ともに行き届いたもので、ススキノに詳しくない読者でも、この街のたたずまいを生きいきと、感じとることができるだろう。

緩やかな連関を持つ連作短編集で、一つひとつのエピソードに工夫があり、それが全体としてススキノを浮かび上がらせる、凝った構成になっている。登場人物の風貌(ふうぼう)や服装、表情の動きなどを精細に描写し、それによってその人物の性格、心理を描き出す手法は、ハードボイルド小説の古典的なわざだ。

黒頭は、決して無敵のヒーローではないが、どんな修羅場でも節を曲げない。その人物造型は、ハメットが創り出したネド・ボーモンを、彷彿(ほうふつ)とさせるものがある。ことに第5話『マンション・コレクター』で、黒頭がやくざにさんざんにぶちのめされるシーンは、1ページにも満たない長さだが、簡潔にして緊張感にあふれた、秀逸な場面だ。

おとなの小説をお望みならば、ぜひ高城作品の小説世界に、ひたっていただきたい。
夜明け遠き街よ / 高城 高
夜明け遠き街よ
  • 著者:高城 高
  • 出版社:東京創元社
  • 装丁:単行本(297ページ)
  • 発売日:2012-08-11
  • ISBN-10:4488024971
  • ISBN-13:978-4488024970
内容紹介:
クラブ経営を夢見るホステスが巻き込まれた奇妙な事件、地上げ騒動の陰に暗躍する女、望むものはすべて手に入れられる実業家のとてつもない浪費の顛末、そしてその莫大な金に群がる政治がらみの男たち-。1980年代、空前の好景気に沸く札幌ススキノ。東京以北最大の歓楽街で繰り広げられる、男と女の群像劇。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年10月14日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
逢坂 剛の書評/解説/選評
ページトップへ