書評

『「アジア」の渚で―日韓詩人の対話』(藤原書店)

  • 2017/09/29
「アジア」の渚で―日韓詩人の対話 / 高 銀,吉増 剛造
「アジア」の渚で―日韓詩人の対話
  • 著者:高 銀,吉増 剛造
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(243ページ)
  • ISBN:4894344521
内容紹介:
民主化と統一に生涯を懸け、半島の運命を全身に背負う「韓国最高の詩人」、高銀。日本語の臨界で、現代における詩の運命を孤高に背負う「詩人の中の詩人」、吉増剛造。二人の詩人の四年にわたる対話の軌跡。
日本と韓国を代表する二人の詩人の対話と、4年越しにわたる往復書簡をまとめた一冊である。吉増剛造は疾走する言語感覚と宇宙論的な想像力で、この40年にわたって日本の現代詩の最先端で書き続けてきた。高銀は元僧侶。軍事政権下にある韓国で拷問と投獄の日々をすごし、そのなかで詩作を続けてきた。二人が偶然にもイタリアの国際シンポジウムの席で出会ったことが、本書の契機となった。

吉増は高の詩を「いたみを入れる容器(いれもの)」と呼び、彼から受けた(時代に対して)眠らないでいることの教示に感謝している。高は吉増のことを「まるで自分自身を消してしまうような、そんな無心」と讃え、振り返って最近の自作は山頂と断崖ばかりを歌いすぎていたのではないかと反省する。大きな破局の後に詩人は独白を余儀なくされる。それをいかに対話へと編み直していくかが、彼らに共通する問題意識である。

二人の言語への接近の仕方は異なっている。吉増は韓日・日韓小辞典を片手に放浪を続け、未知の言語である韓国語の単語を、その音声を愛おしく撫でるかのように受け入れる。彼はそこから詩的想像力が立ち上がる瞬間を待ち望む。だが植民地下に日本語を学ばされた高にとって、日本語はいささかもフェティシズムの対象とはなりえない。彼が言語に求めているのは、「世界の傷」を治療するための力である。とはいうものの、詩こそが根源的に宇宙の無限を志向する言語であるという確信において、二人は共通している。高が自作を「宇宙方言」と呼ぶとき、吉増はそれに共鳴する。

先に「日本と韓国を代表する」と書いたが、実際のところ、この二人はけっして何かを代表する立場で発言しているわけではない。語っているのはどこまでも個人であり、その詩的直観と経験の知である。ゲーテのいう「親和力」の見本のような書簡集といえる。




【この書評が収録されている書籍】
人間を守る読書  / 四方田 犬彦
人間を守る読書
  • 著者:四方田 犬彦
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(321ページ)
  • 発売日:2007-09-00
  • ISBN:4166605925
内容紹介:
古典からサブカルチャーまで、今日の日本人にとってヴィヴィッドであるべき書物約155冊を紹介。「決して情報に還元されることのない思考」のすばらしさを読者に提案する。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

「アジア」の渚で―日韓詩人の対話 / 高 銀,吉増 剛造
「アジア」の渚で―日韓詩人の対話
  • 著者:高 銀,吉増 剛造
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(243ページ)
  • ISBN:4894344521
内容紹介:
民主化と統一に生涯を懸け、半島の運命を全身に背負う「韓国最高の詩人」、高銀。日本語の臨界で、現代における詩の運命を孤高に背負う「詩人の中の詩人」、吉増剛造。二人の詩人の四年にわたる対話の軌跡。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2005年6月19日

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