書評
『1969―新宿西口地下広場』(新宿書房)
迫る「広場の政治」の高揚感
日本では諸外国と異なり、首都に「広場」と名のつく空間が少ない。有名な広場といえば、皇居前広場と新宿西口地下広場ぐらいだろう。どちらも、政治的な集会が何度も開かれながら、警官隊や機動隊に強制排除されたのを契機に、広場の性格が大きく変わった。その年は、前者が血のメーデー事件が起こった1952年、後者が69年だった。69年の集会はフォークゲリラと呼ばれた。本書には、当時の模様が克明に記録された映画がDVDとして付いている。現在と一見変わらない新宿西口地下広場が若者たちで埋まり、討論の輪が生まれたと思えば、機動隊が彼らに催涙弾を浴びせて追い払おうとする。日本の現代史のなかで定着することのなかった「広場の政治」の高揚感が、見る者に迫ってくる。
特に大学生に本書を強く薦めたい。そして本書を読んだら、新宿西口地下広場に足を運んでみてほしい。雑踏のなかから、45年前の光景が浮かび上がるはずだ。
朝日新聞 2014年8月10日
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