書評

『マラソンと日本人』(朝日新聞出版)

  • 2017/10/09
マラソンと日本人  / 武田 薫
マラソンと日本人
  • 著者:武田 薫
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(344ページ)
  • 発売日:2014-08-08
  • ISBN-10:402263023X
  • ISBN-13:978-4022630230
内容紹介:
開国後の日本は外国人からさまざまなスポーツを学び、それらは全国津々浦々に普及した。なかでも「走る」ことで国際的舞台への参加・活躍を夢見た近代日本は、やがて世界に例のないかたちの「… もっと読む
開国後の日本は外国人からさまざまなスポーツを学び、それらは全国津々浦々に普及した。なかでも「走る」ことで国際的舞台への参加・活躍を夢見た近代日本は、やがて世界に例のないかたちの「マラソン大国」となってゆく。参加者1万人超の規模のフルマラソン大会が毎週ある国は珍しい。マラソンをテレビ中継するのも、メディアの利権が絡むのも特異だ。日本初参加の五輪、ストックホルム大会で走った金栗四三、東京五輪の銅メダルののち自死した円谷幸吉、その後の瀬古利彦、中山竹通など、日本のマラソンを世界に導いたランナーたちは何を想って走ったのか。いま、日本のマラソンは低迷し、世界のトップ集団から置いていかれる一方で、国内では多くの市民ランナーたちが走っている。日本人にとってマラソンとは何か。近代マラソンの歩みを振り返り、我が国の国際性、スポーツ観の変遷をたどる。

明治以来の「走る」異端児たち

マラソンと駅伝。どちらも日本人には人気の高いスポーツである。前者は明治末期から、後者は大正期から国内で大会が開かれている。

しかし、前者はオリンピックやボストンマラソンなどが目標となるのに対して、後者は国内で完結している。前者は個人、後者は団体という点も異なる。両者の違いに目配りしつつ、明治以来の「走る」歴史を、膨大な資料やデータを通して明らかにしたのが本書である。

もちろんオリンピックには、日本という国家の影がまとわりつく。だが本書に登場するマラソン選手の多くは、国家や組織に反抗し、自己流を貫く異端児であった。例えばベルリン大会で金メダルを獲得した孫基禎は、君が代を聞きながら悲しみの涙を流した。メキシコ大会で銀メダルを獲得した君原健二もまた、必ず日の丸を揚げると意気込むコーチに反発した。逆に東京大会で銅メダリストとなった円谷幸吉は、「島国の重い大気」に押し潰され、メキシコ大会直前に自決した。

著者が史上最強と認める瀬古利彦も、組織に媚(こ)びない徹底した独立心のある中村清と出会うことで強くなった。そしてポスト瀬古の一番手となる中山竹通(たけゆき)こそは、誰にも追求できない方法論を確立させたランナーであった。

だが、1992年のバルセロナ大会を最後に、日本の男子マラソンは低迷期に入る。その背景として、著者は箱根駅伝やニューイヤー駅伝に代表される駅伝の隆盛を指摘している。選手自身が、「外」よりも「内」を優先させる傾向が強まったのだ。これは昨今のナショナリズムの台頭や海外留学の減少とも無縁ではないように見える。

この閉塞(へいそく)状況を打破する選手として、著者は実業団に属さない川内優輝や藤原新(あらた)の名を挙げる。日本マラソン史における異端児の系譜が途切れたわけではないのが、せめてもの救いといえようか。
マラソンと日本人  / 武田 薫
マラソンと日本人
  • 著者:武田 薫
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(344ページ)
  • 発売日:2014-08-08
  • ISBN-10:402263023X
  • ISBN-13:978-4022630230
内容紹介:
開国後の日本は外国人からさまざまなスポーツを学び、それらは全国津々浦々に普及した。なかでも「走る」ことで国際的舞台への参加・活躍を夢見た近代日本は、やがて世界に例のないかたちの「… もっと読む
開国後の日本は外国人からさまざまなスポーツを学び、それらは全国津々浦々に普及した。なかでも「走る」ことで国際的舞台への参加・活躍を夢見た近代日本は、やがて世界に例のないかたちの「マラソン大国」となってゆく。参加者1万人超の規模のフルマラソン大会が毎週ある国は珍しい。マラソンをテレビ中継するのも、メディアの利権が絡むのも特異だ。日本初参加の五輪、ストックホルム大会で走った金栗四三、東京五輪の銅メダルののち自死した円谷幸吉、その後の瀬古利彦、中山竹通など、日本のマラソンを世界に導いたランナーたちは何を想って走ったのか。いま、日本のマラソンは低迷し、世界のトップ集団から置いていかれる一方で、国内では多くの市民ランナーたちが走っている。日本人にとってマラソンとは何か。近代マラソンの歩みを振り返り、我が国の国際性、スポーツ観の変遷をたどる。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年10月19日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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