書評

『マイクロワールド』(早川書房)

  • 2017/09/27
マイクロワールド 上  / マイクル・クライトン,リチャード・プレストン
マイクロワールド 上
  • 著者:マイクル・クライトン,リチャード・プレストン
  • 翻訳:酒井 昭伸
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:新書(450ページ)
  • 発売日:2015-03-06
  • ISBN-10:4150413355
  • ISBN-13:978-4150413354
内容紹介:
ハイテク企業により、極小の体にされた学生たち。密林に放り込まれた彼らの運命は?

専門知識を駆使したサバイバル

マイクル・クライトンと言えば、『アンドロメダ病原体』『ジュラシック・パーク』などの傑作群の執筆はもちろん、映画『ウエストワールド』や『未来警察』の監督から、TVドラマ『ER緊急救命室』の製作総指揮まで、多方面で活躍してきた不世出の天才。その巨人も病魔には勝てず、2008年11月、66歳で世を去った。

昨年アメリカで刊行された本書『マイクロワールド』は、没後発見された書きかけの原稿(全体の4分の1ほど)が原型。残された手書きのメモや資料をもとに、『ホット・ゾーン』で知られる腕利きのサイエンス・ライター、リチャード・プレストンが2年がかりで完成させた。

今回の趣向は、人体の縮小。いわば、クライトン版『ミクロの決死圏』だが、本書の決死行の舞台になるのは、ハワイの大自然。巨大なアリやヤスデやハチが次々に襲ってくる。人間が小さくなることで昆虫が怪獣化したわけで、ある意味、逆『ジュラシック・パーク』と言えなくもない。

物語の主役は、植物学や昆虫学を専門とする、男女7人のハーバード大学院生。対する悪役は、超小型ロボットや新薬の開発を行う新興ハイテク企業、Nanigen(ナニジェン)マイクロテクノロジーズのドレイク社長。同社の研究スタッフにならないかと勧誘された7人は、見学のため、ハワイのオアフ島にある同社研究所を訪れ、革命的な物質縮小装置を目のあたりにする。

だが、同社が重大な犯罪に関わった事実をつきとめた彼らは、口封じのため、その装置によって体を100分の1サイズに縮められ、ハワイの密林に放り出されてしまう。しかも、縮小化には副作用があり、数日以内にもとの大きさに戻らないと死に至る危険が高い。はたして7人は、この絶望的な状況を乗り切れるのか?

院生たちがそれぞれの専門分野(昆虫学、植物学、および動植物の毒)の知識を駆使してサバイバルしていく冒険パートは無類のおもしろさ。「だれが最後まで生き残るのか?」というサスペンスに加え、思いがけない展開も用意され、ヴィンテージ級のクライトン節が堪能できる。
マイクロワールド 上  / マイクル・クライトン,リチャード・プレストン
マイクロワールド 上
  • 著者:マイクル・クライトン,リチャード・プレストン
  • 翻訳:酒井 昭伸
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:新書(450ページ)
  • 発売日:2015-03-06
  • ISBN-10:4150413355
  • ISBN-13:978-4150413354
内容紹介:
ハイテク企業により、極小の体にされた学生たち。密林に放り込まれた彼らの運命は?

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2012年5月27日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
大森 望の書評/解説/選評
ページトップへ