書評

『犬と私の10の約束』(文藝春秋)

  • 2017/07/01
犬と私の10の約束 / 川口 晴
犬と私の10の約束
  • 著者:川口 晴
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(216ページ)
  • 発売日:2007-07-28
  • ISBN-10:4163261702
  • ISBN-13:978-4163261706
内容紹介:
あかりが12歳のとき、子犬のソックスがやってきた。亡くなった母とかわしたあの約束を、はたして、あかりは守れるのか…。
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

とにかくおためごかしな話。川口晴と文藝春秋よ、猛省しる!

いやー、もっと早く読んどけばよかったわ、『犬と私の10の約束』。すごく応用きくんだもん、というわけで、早速、この本の作者・川口晴さんのために10の約束を考えてみたんですの。

①とっても文章がへたですけど、私と気長につきあってください。②私がいつかまともな小説が書けると信じてください。③私にも酷評されれば傷つく心があることを忘れないでください。④書けないときは理由があります。⑤私の本をたくさん買ってください。難しい言葉はわからないけど、褒められればわかります。⑥私をたたかないで。本気になったらあなたの名前を使ったスカトロ小説くらい書けることを忘れないで。⑦私が年を取って武者小路実篤みたいなボケ文章を書くようになっても仲良くしてください。⑧一発屋の私は三年くらいしか小説家でいられません。だから今のうちにできるだけ私の本を読んでおいてください。⑨あなたには伊坂幸太郎もいるし、恩田陸もいます。でも、私にはあなたしかいません。⑩私の本が絶版になるとき、お願いです、ブックオフに売らないでそばに置いてください。

あー、渡辺淳一や都知事バージョンも作りてえ。

映画化されるくらい話題になった小説(もどき)なので、読んだ方が多いと思うんですけど、どうなんですか、実際の話。オデは稀代のケモノバカ一代を自負しておりますが、泣けませんでしたよ。未読の方のために粗筋を紹介いたしますと、これって泣いたことがない少女〈私〉がゴールデンレトリバーの子犬を飼うようになり、ソックスと名づけたその犬が十年後に死んで初めて泣くまでを、母親の死や幼なじみの恋とからめながら描いた物語なんですの。

「ずるいなー」って感心したのが、ソックスのモデルとおぼしき超ラブリィな犬の写真があっちゃこっちゃに挿入されてること。語り手〈私〉の頭の中身をそのまま投影したかのように幼稚な文章にキレそうになると、ソックス登場。で、怒りもクールダウン。その繰り返しで何とか最後まで読めましたが、もー、とにかくおためごかしな話なんですよ。一度も泣いたことがないって主人公の基本設定がウソくさけりゃ、眠るようにきれいに死んでいくソックスも生き物としてウソくせえの。可哀想なことにソックスは、小説世界内をリアルに生きる一匹の犬としては描いてもらえず、この本を売れるものにするための”泣き”の装置として利用されてるだけ。稀代のケモノバカとして、このような横暴を許しておくわけにはまいりません。

川口晴と文藝春秋は猛省しる!

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

犬と私の10の約束 / 川口 晴
犬と私の10の約束
  • 著者:川口 晴
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(216ページ)
  • 発売日:2007-07-28
  • ISBN-10:4163261702
  • ISBN-13:978-4163261706
内容紹介:
あかりが12歳のとき、子犬のソックスがやってきた。亡くなった母とかわしたあの約束を、はたして、あかりは守れるのか…。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2008年6月7日号

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
豊崎 由美の書評/解説/選評
ページトップへ