書評

『ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇』(ウイーヴ)

  • 2017/08/03
ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇 / DBCピエール
ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇
  • 著者:DBCピエール
  • 翻訳:都甲 幸治
  • 出版社:ウイーヴ
  • 装丁:単行本(396ページ)
  • ISBN:4863325983
内容紹介:
痛快無類な文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜けるブッカー賞受賞の大問題作、ついに刊行。
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

イケてない十五歳非モテ男が主人公の、二十一世紀型青春小説

ブロス読者はぜぇーったい好きだと思う、DBCピエールの『ヴァーノン・ゴッド・リトル』のことを。だって主人公のヴァーノンは、高校で銃を乱射して十八人も殺した末に自殺するという、あのコロンバイン高校事件を彷彿させる事件を起こした少年ジーザスの、ただ親友だったから怪しいというだけの理由で共犯者の濡れ衣を着せられてしまう、あんまりイケてない十五歳非モテ男子なんですもの。最初っから犯人と決めつけて取り調べを行う、太った副保安官女性のチキンを食べる様を〈唇からぶりぶり吸いこまれていくそれは、クソがいつもとは逆方向に体に入っていくようだった〉なんて表現する、ヴァーノンのファッキン「おれ」語りは、テレビ情報誌とも思えぬ非主流型オフビート感覚満載の本誌を好む人なら、きっとしっくり気持ちに馴染むはずなんですもの。

〈テレビ画面では事実は白か黒だろ。でもそれは、大量のグレーをプロ集団がふるい分けてるからさ。おまえに必要なのは自分の立ち位置だよ。市場に出回る商品と同じ――刑務所は立ち位置を決められなかったやつでいっぱいさ〉とうそぶくテレビリポーターは、無実を証明できる目撃者がいると反論するヴァーノンを〈最初に指差した異常者に世間の意見は従うんだよ〉とあざ笑い、視聴率と人気を稼ぐためにでっち上げの報道を流す。大人たちは保身のために彼を平気で見殺しにする。ジーザスをいじめ倒したクラスメートたちの罪は誰も問わないし、ヴァーノンの言葉に耳を傾ける者は誰もいない。母親ですら彼がやったと思い込む始末。〈今おれが学んでいるのはこんなことだ。世界は毎日ケツで笑っていて、クソが出るときには二倍の速さで嘘をつく。(中略)つまりさこりゃいったいどんな人生なんだよ?〉と嘆くのも無理がありません。というわけで、ヴァーノンはそんな世間に精一杯の悪態をつきながらメキシコへ逃亡しようとするのですが――。

実はヴァーノンには身の潔白を証明できる物証があるんです、ところが、それは思春期の少年にとって万死に値するほどの恥辱を伴うものだから、彼はそのことを弁護士にも伝えられない。悪態をつくのはうまいのに、自分の気持ちや権利をきちんと周囲の大人に伝えられないヴァーノン。最初はスラップスティックな展開に笑いながら読んでいるのだけれど、だんだんそんな彼のことが可哀想で仕方なくなって、「逃げ切れ!」と応援している自分に気づくんです。二十一世紀型の新しい青春小説。ブロス読者なら、きっとこの魅力を理解してくれるはず。トヨザキはそう信じてるんですの。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN:4054038727
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇 / DBCピエール
ヴァーノン・ゴッド・リトル―死をめぐる21世紀の喜劇
  • 著者:DBCピエール
  • 翻訳:都甲 幸治
  • 出版社:ウイーヴ
  • 装丁:単行本(396ページ)
  • ISBN:4863325983
内容紹介:
痛快無類な文体で、現代アメリカを黒い笑いの連打で駆け抜けるブッカー賞受賞の大問題作、ついに刊行。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2008年3月1日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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