書評

よるくま(偕成社)

  • 2017/10/08
よるくま / 酒井 駒子
よるくま
  • 著者:酒井 駒子
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(32ページ)
  • 発売日:1999-11-01
  • ISBN:4033312307

※書店によっては、在庫の無い場合や取り扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

よるくまの魅力

おやすみ前の一冊として、広く愛読されている『よるくま』。息子も、この絵本が大好きだ。

初めて読んだときには、「夜、目が覚めたらおかあさんがいなかった」という設定が恐すぎたのか、途中まで、ものすごく険(けわ)しい顔をして聞いていた。だから、おかあさんに会えるシーンでは、トンネルから抜け出たように顔がぱっと明るくなった。

その前のページでは、まっくらな中に流れ星が見えるだけ。そしてめくったところに、見開きで現れる再会のシーン。絵本というシンプルなつくりで、こんなに豊かな起伏が表現できるのか、と驚かされる。この唯一の見開きページには、言葉がいっさいない。ヘタな言葉などいらない、と思わせるだけの素晴らしい絵だし、読者が「わあっ」でも「おかあさん!」でも「よるくまちゃん!」でも、そのときの気持ちの勢いで言葉を発していい、という気もする。

最後のページも素敵だ。それまで「よるくま」の話をしていた男の子が、いつのまにかくまのぬいぐるみを抱いて、眠りについている。たぶん「よるくま」の話は、この男の子が夕べ見た夢なのだろう。でも、そうとばかりも決めつけられない感じもあって、それが不思議な読後感を残す。

ママと男の子の会話の中に「よるくまとおかあさん」が出てきて、それが物語となり、また自然にママと男の子の世界に戻ってくる。そのさらに外側には、この絵本を読んでいる自分と子どもがいるので、三組の母子が入れ子構造のように感じられるのが、おもしろい。

結末を知った息子は、険しい顔をしなくなったが、よるくまが寂しがるのが心配でたまらないらしく、「あのね、だいじょうぶだからね。おかあさん、おさかなつってるからね」「あのね、こうえんにはいないからね。おかあさん、おさかなつってるからね」と、いちいち先回りして、よるくまに教えるようになった。読んでいるほうとしては、とてもやりにくいのだが、そこはぐっと我慢して、この絵本に出てくるママのように、「あらそう?」と優しく聞き返しながら、読みすすめることにしている。

このママの聞く姿勢には、実際学ぶところが多い。きちんと興味を示して、あいづちを打ちながら、ときおりそっと助け舟を出すのだ。

絵本の冒頭は「ママあのね……」「まあまだおきてたの」「あのねきのうのよるね……」と始まるのだが、「ママあのね……」「まあまだおきてたの。早く寝なさい」では、この素敵なお話は語られることなく終わってしまう。だからこれは、坊やとママの二人で創作した話だとも読める。「早く寝なさい」の一言をこらえて、子どもの話をよく聞ける自分でいたいものだと、『よるくま』を開くたびに思う。

 「かーかん」にいろんな意味のしっぽあり「かーかんやって」「かーかんちょうだい」



【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 (朝日文庫) / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私 (朝日文庫)
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN:4022646667

※書店によっては、在庫の無い場合や取り扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
※詳しい購入方法は、各ネット書店のサイトにてご確認ください。

よるくま / 酒井 駒子
よるくま
  • 著者:酒井 駒子
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(32ページ)
  • 発売日:1999-11-01
  • ISBN:4033312307

※書店によっては、在庫の無い場合や取り扱いの無い場合があります。あらかじめご了承ください。
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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞

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