書評

『りゅうの めの なみだ』(偕成社)

  • 2017/08/26
りゅうの めの なみだ / 浜田 広介
りゅうの めの なみだ
  • 著者:浜田 広介
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(33ページ)
  • 発売日:1965-11-01
  • ISBN-10:4033020101
  • ISBN-13:978-4033020105
内容紹介:
ふしぎな少年の勇気と友情が人びとに恐れられていた竜の心をなごませます。気品ある絵が、愛と善意の世界の奥ゆきを深めます。

「りゅう」とおしゃべり

ストーリーのある絵本を楽しめるようになった息子は、このごろさかんに登場人物に話しかけてくる。「くる」と感じるのは、読んでいる私が、答えなくてはならないからだ。

平面に描かれている絵という意識はないらしく、ぬいぐるみなどと、まったく同じように、楽しそうに会話をする、このわけへだてのなさに、はじめは驚かされた。

今息子が一番よく話をするのは『りゅうのめのなみだ』の「りゅう」だ。もともとこのお話が大好きで、初めて読んでやったときには、涙ぐんでいた。

そのうち、主人公の子どもと同じように、りゅうを自分の家によんでやりたいと思うようになったようだ。

「あのね、ねんどあるんだけど、こんどねんどしよ」。りゅうとの会話がはじまると、物語のほうは完全に中断したままとなる。

「ねんど?」とりゅうの声音で私が答えると、息子の顔がぱっと輝く。

「いろんないろがあるから、みせたげる。りゅう、てがないから、ふた、あけたげるから……それからカレーたべよ」

「カレー?」

「ちょっとからいの。でもがんばればだいじょうぶ、からいときは、みずのんでね」

ある時、ややコワイ声で「たべてもいいおともだちは、いる?」と聞いてみると、「いません!」ときっぱり言われてしまった。また「ねえ、りゅうのこと、こわくないの?」と水をむけると「……ちょっと、こわい」と、もじもじ。

(悲しそうなりゅうの声で)「えっ、やっぱり、こわいんだ」

「うん、でも、ちょっとだよ、たくさんじゃないよ、ちょっとこわいの」

一所懸命気をつかっているのが、なかなか健気だ。だんだんこちらも、物語そっちのけで、りゅうごっこをしてしまう。

翌日も会話は続き「きのう、りゅうといっぱいお話ししたねえ」「うん、いろんなものたべさせたげるんだ。かんぴょうと、ラムネと、キャベツと……りゅう、キャベツたべるかな?」「さあ、聞いてみたら」という具合。すると、さっそく絵本を持ってきて「ねえりゅうくん、キャベツすき?」と、表紙にむかって子どもは話しかける、「すきだよ~」と、またりゅうの声で答えると、大喜びである。

さらに後日、シッターさんと粘土あそびをしているときにも、「あのね、あしたりゅうがくるんだ」と、ごく普通のことのように話していた。

「???」となっているシッターさんに、かくかくしかじかと説明をすると、ナルホド、とにっこり。

「りゅうに、きてねっておねがいしちゃったの」

嬉しそうに言う息子を見ていると、なんだか本当に、りゅうが遊びにくるような気がしてくる。

【この書評が収録されている書籍】
かーかん、はあい 子どもと本と私 / 俵万智
かーかん、はあい 子どもと本と私
  • 著者:俵万智
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:文庫(224ページ)
  • 発売日:2012-05-08
  • ISBN-10:4022646667
  • ISBN-13:978-4022646668
内容紹介:
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名… もっと読む
6歳になった今も、息子は絵本を持って母のもとへやってくる――。子育てをする歌人が、子どものために選び、自身も心を揺り動かされた絵本48冊を紹介したエッセイ。母親世代にも懐かしい不朽の名作から、図鑑、ことば遊び、シュールなものまで、幅広く選んでいる。成長に応じた絵本探しの参考として、また母と子のあたたかな交流を描いた本として楽しい一冊。単行本全2巻を1冊にまとめて文庫化。

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りゅうの めの なみだ / 浜田 広介
りゅうの めの なみだ
  • 著者:浜田 広介
  • 出版社:偕成社
  • 装丁:単行本(33ページ)
  • 発売日:1965-11-01
  • ISBN-10:4033020101
  • ISBN-13:978-4033020105
内容紹介:
ふしぎな少年の勇気と友情が人びとに恐れられていた竜の心をなごませます。気品ある絵が、愛と善意の世界の奥ゆきを深めます。

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朝日新聞

朝日新聞 2006年4月26日

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