書評

『たこやき』(リブロポート)

  • 2017/12/23
たこやき / 熊谷 真菜
たこやき
  • 著者:熊谷 真菜
  • 出版社:リブロポート
  • 装丁:単行本(266ページ)
  • ISBN-10:4845708280
  • ISBN-13:978-4845708284
内容紹介:
たこやきのルーツを探り、たこやきの未来を想い描く、初のたこやき大研究。
神戸出身の友だちに誘われて、たこやきを食べに行ったことがある。彼は「ほんとうのたこやきが、新宿にもあったんだよ」と大発見をしたように興奮していた。多少のうまいまずいはあるだろうけど、たこやきに本物とか偽物とか、大げさやなあ、と思った。

が、いざそのお店に行って、びっくり。ふわふわしたボール状の玉子焼きのようなものを、おすましみたいな汁につけて食べるのだ。今度は私のほうが騒ぎはじめてしまった。

「えーっ、なんでこれがたこやきやの?ソースは?青のりは?」

本書の著者は、私とは逆で、ソースのたこやきを食べてびっくりしたと言う。そこが興味の出発点。それぞれのルーツをたどるうちに、ラヂオ焼きというものから発展した、醤油味のたこやきもあることがわかってくる。その醤油味のものに蛸を入れるきっかけとなったのは、実はお客さんのひとこと。「なにわは肉かいな。明石はタコ入れとるで」

で、この明石のほうも、いろいろと変化の歴史があり、始めはだし汁につけるということはなかった。名称はたこやきではなく、玉子焼き、という。のちに考案されただし汁も、冷たいのあり温かいのあり、とさまざまだ。明石玉という珊瑚の模造品の製造がふるわなくなった結果、その道具を再利用しようとして生まれたのが「明石の玉子焼き」だったのではないか、というのが著者の推理である。あくまで仮説だが、物語じたての推理に、私は説得されてしまった。

たこやきのような庶民的な食べ物には、文献学的な資料は、ほとんどない。したがって、たこやきに迫ろうとする著者は、体当たりで多くの人たちの話を、根気よく聞きつづけることになる。本書の魅力のひとつは、そのインタビューに登場する人たちの、素朴で味わい深い語りにあるだろう。みんな、驚くほどたこやきに誠実だ。少しでもおいしく、と工夫を重ねる姿は、職人魂を感じさせる。が、どこか肩の力が抜けているのがいい。

そして著者の好奇心は、たこやきの歴史を調べるだけではおさまらない。蛸をたどればタコ壼を作る現場まで、ソースをたどればソース会社の社長のところまで、たこやきを焼くための鍋をたどれば、明石でただ一軒作りつづけている板金の職人さんのところまで……。さらには、爪楊枝や小麦粉についてまで、考察の輪は広がってゆく。

好奇心があれば、一粒のたこやきからだって、こんなに豊かで楽しい本が生まれるのだ。

【文庫版】
たこやき―大阪発おいしい粉物大研究  / 熊谷 真菜
たこやき―大阪発おいしい粉物大研究
  • 著者:熊谷 真菜
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(329ページ)
  • ISBN-10:4062638002
  • ISBN-13:978-4062638005

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【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • 発売日:1995-03-01
  • ISBN-10:4309009719
  • ISBN-13:978-4309009711
内容紹介:
大好きな本だけを選んで、読んだ人が本屋さんへ行きたくなるような書評を書きたい-朝日新聞日曜日の書評欄のほか、古典文学からとっておきのお気に入り本まで、バラエティ豊かに紹介する、俵万智版・読書のススメ。

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たこやき / 熊谷 真菜
たこやき
  • 著者:熊谷 真菜
  • 出版社:リブロポート
  • 装丁:単行本(266ページ)
  • ISBN-10:4845708280
  • ISBN-13:978-4845708284
内容紹介:
たこやきのルーツを探り、たこやきの未来を想い描く、初のたこやき大研究。

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