書評
『3、1、2とノックせよ』(東京創元社)
フレドリック・ブラウンはSFではあれほどの奇才を発揮するのに、なぜミステリになると駄目になるのか――これは昔から謎とされてきた興味深い問題だが、本書のような例外もある。小都市に出没する強姦殺人魔と借金で首が回らなくなったサラリーマンの恐ろしいスレちがいを描いた本書は、一気に読ませるサスペンス・スリラーの快作というにとどまらず、ミステリの歴史に重要な地位を占める名作でもある。この主人公は「痴漢」と訳されているが、原文は psycho なのだ。この言葉を最初に使用したサイコ・スリラーの元祖としてロバート・ブロックの『サイコ』とともに讃えられるべき作品なのである。発表はともに一九五九年。
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この小説の主人公はふたりいる。ひとりはもちろんアブノーマルな痴漢であり、もうひとりはノーマルな普通人だ。しかしこの普通人のやることは痴漢以上におそろしい。しからば、ほんとうの気違い(サイコ)はどちらであろうか?(厚木淳「ノート』)
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