書評
『歯と爪』(東京創元社)
これは最高のサスペンス小説である。この傑作がなぜ海外で評価されていないのか、日本でもさほど評価が高くないのか、理解できない。カットバック手法が安易だというのか? そんなことはない。これはカットバックという映像的手法を逆手に取った小説なのだ。一つは奇術師の恋物語、もう一つは恐ろしく残虐な殺人事件の裁判、およそ無関係に見えるこの二つの物語が交互に書き進められ、サスペンスが最局潮に達したところで意外なつながり方をする、その醍醐味はまさにミステリならではのものである。冒頭の文章に秘められたトリック"Who done it?"の連発で終わる技巧。復讐奇譚としても、ウールリッチのどの小説よりもおもしろい。
【この書評が収録されている書籍】
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