書評

『「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる』(NHK出版)

  • 2017/10/24
「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる  / 竹内 整一
「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる
  • 著者:竹内 整一
  • 出版社:NHK出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(237ページ)
  • 発売日:2009-12-23
  • ISBN-10:4140911476
  • ISBN-13:978-4140911471
内容紹介:
わたしたちは古代から今にいたるまで、「かなしみ」を主題にした歌や物語に慣れ親しんできた。本来厭うべきであるはずのこの感情を積極的に享受し表現してきた日本人の態度から、どのような世界観を引き出すことができるのか。かなしむ「われ」(自分)の中に、日本的美意識や倫理感覚が生まれる瞬間を見定め、かぎりある人間とかぎりのない世界との関係の本質に迫る、日本思想研究の精髄を注ぎ込んだ力作。

万葉集から演歌まで響き合うもの

「かなしみ」という文字を見ると、つい反応してしまう私。その反応には、どこかうっとりとした陶酔感が伴うのであり、かなしみの塩分によって強められる甘味が、確かにあるのです。

本書を読むと、そういった反応を示すのは、どうやら私だけではないようなのでした。かなしみという感情が、詩や文学の主題となりやすいのは万国共通ですが、日本において特徴的なのは、かなしみと無常とが、強いかかわりを持つこと。死や別れのみならず、花が咲いたり月が欠けたりするにつけ、我々の先祖は“常など無いのだ”と、ほろりとしていたのです。

唐木順三は『無常』の中で、日本人が無常を語る時は、「きわだって雄弁」になったり「特に美文調」になる傾向が強いと記しています。してみると私が「かなしみ」という文字を見る時に感じるうっとり感は、古来日本人が無常を語る時に気持ちを高ぶらせてきた、その意識と通じるのかもしれません。

「かなしみ」とはそもそも、「『……しかねる』の『カネ』と同じところから出た」ものであり、「何ごとかをなそうとしてなしえない」切なさや無力性を感じつつ、何もできない状態を示す言葉なのだそう。すなわち自己の有限性を見た時に、人はかなしみを感じるのです。

日本人は、その有限性を自覚し、運命、諦(あきら)め、己の無力に接することによって、無限のもの、常なるものを理解しようとしてきたと著者は説きます。本書を読むことによって、自分のうっとり感が、果たして超越的な存在に対する憧憬(しょうけい)によるものなのか、それとも単なる「自己哀惜のナルシシズム」なのか、私は考えることになったのでした。

著者は、万葉集から演歌まで、日本人が愛した様々なかなしみの表現をひもといていきます。時代によってかなしみの表層は異なれど、そこには共通した芯がある。万葉の人ともかなしみの心が響き合うかと思うと、またもや私の中には甘美な陶酔感が湧(わ)いてきてしまったのでした。
「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる  / 竹内 整一
「かなしみ」の哲学 日本精神史の源をさぐる
  • 著者:竹内 整一
  • 出版社:NHK出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(237ページ)
  • 発売日:2009-12-23
  • ISBN-10:4140911476
  • ISBN-13:978-4140911471
内容紹介:
わたしたちは古代から今にいたるまで、「かなしみ」を主題にした歌や物語に慣れ親しんできた。本来厭うべきであるはずのこの感情を積極的に享受し表現してきた日本人の態度から、どのような世界観を引き出すことができるのか。かなしむ「われ」(自分)の中に、日本的美意識や倫理感覚が生まれる瞬間を見定め、かぎりある人間とかぎりのない世界との関係の本質に迫る、日本思想研究の精髄を注ぎ込んだ力作。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2010年2月7日

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