『撤退論』に寄稿しませんか。内田樹氏のひと声に15名の論客が馳せ参じた。さながらミニ梁山泊(りょうざんぱく)だ。
撤退とは≪国力衰微の現実に適切に対応する≫こと(まえがき)。現実を見つめ生き方を切り換えよう。当たり前だが、これができない。
撤退は英語でリトリート。教会メンバーが静かに内面をふり返る合宿だ。信仰の原点に戻ろう。この精神で見直せば、右肩下がりの衰退も豊かに生き直すチャンスとわかる。
論客らの声を聞こう。斎藤幸平氏は≪下からのコモン(公共財)の再生≫を説く。白井聡氏は、民主主義再生には≪他者の耐え難さを耐え≫よと説く。岩田健太郎氏は感染症研究を踏まえ≪理性的な悲観論者≫たれと説く。渡邉格・麻里子氏は田舎に撤退、野生の菌でタルマーリーというパン屋を営む。平川克美氏は起業した会社を畳み「隣町珈琲」を開いた。後退と見えていたのが実は前進。それに気づくのが撤退だ。
『撤退論』は読者に呼びかける。日本人は八○年近く夢を見てきた。夢はいま悪夢だ。生活習慣病のように、慣性の力学から逃れられない。逃れるには現状を語る言葉をもつこと。その第一歩が本書だよ、と。