書評

『スウェーデンの騎士』(国書刊行会)

  • 2017/11/15
スウェーデンの騎士 / レオ ペルッツ
スウェーデンの騎士
  • 著者:レオ ペルッツ
  • 翻訳:垂野創一郎
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(270ページ)
  • 発売日:2015-05-15
  • ISBN-10:4336058938
  • ISBN-13:978-4336058935
内容紹介:
貴族の若者と名無しの泥坊、対照的な二人の人生は不思議な運命によって交錯し数奇な物語を紡ぎ始める。波瀾万丈のピカレスクロマン。

身分を入れ替えて生きる 二人に課せられた運命

平安時代に書かれた『とりかへばや物語』は、持って生まれた性を取り替えて宮廷に仕えるきょうだいを描いていて、ことのほかスリリングなお話ですが、身分の取り替えで有名な作品といえば、マーク・トウェインの『王子と乞食』で、これは双子のようにそっくりな二人が入れ替わって異なる人生を体験する、老若男女を問わず愉(たの)しめるお話です。

『スウェーデンの騎士』は紛れもなく後者に属する物語です。十八世紀のシレジアを舞台にした本書は、運命を司(つかさど)る天使や悪魔、盗賊団や龍騎兵隊などが登場して賑(にぎ)やかで、登場人物の独白の面白さもあってシェイクスピアの戯曲を読んでいるような気持ちにもなります。

いささか意志の弱い青年貴族と旅の道連れになった泥坊(どろぼう)は、最初こそ相手を気遣い、目的を果たすべく旅を続けようとしますが、貴族に言づてを頼まれてその許嫁(いいなずけ)のもとに行くや、その娘にすっかり心を奪われます。さらに娘が使用人たちに騙(だま)され、没落しかかっている状況を看過できなくなった彼は、娘と暮らし屋敷を豊かにしたいという願望に煩悶(はんもん)します。ここまではよくある話ですが、本書の醍醐味(だいごみ)はその後の展開にあります。

この才長(た)けた泥坊は世に恐れられる盗賊の首領になって悪事を重ねて金を蓄え、恋する娘のもとに駆けつけ、自分が青年貴族だと打ち明けて結婚します。一方本物の貴族のほうは、恐ろしい労働を課せられて苦しい年月を過ごすのですが、この身分の交換には厳しい取り決めがあったのです。

血湧き肉躍る冒険成功譚(たん)とも、運命に翻弄(ほんろう)される人間を描いた悲喜劇とも、華々しい時代小説とも読める本書には、いかにもペルッツらしい人間と超自然、偶然と必然の織りなす世界が描かれていてとても味わい深い作品です。
スウェーデンの騎士 / レオ ペルッツ
スウェーデンの騎士
  • 著者:レオ ペルッツ
  • 翻訳:垂野創一郎
  • 出版社:国書刊行会
  • 装丁:単行本(270ページ)
  • 発売日:2015-05-15
  • ISBN-10:4336058938
  • ISBN-13:978-4336058935
内容紹介:
貴族の若者と名無しの泥坊、対照的な二人の人生は不思議な運命によって交錯し数奇な物語を紡ぎ始める。波瀾万丈のピカレスクロマン。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2015年6月28日

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