書評

『図説 邪馬台国物産帳』(河出書房新社)

  • 2017/11/30
図説 邪馬台国物産帳 / 柏原 精一
図説 邪馬台国物産帳
  • 著者:柏原 精一
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(95ページ)
  • ISBN-10:4309724833
  • ISBN-13:978-4309724836
内容紹介:
理科系の歴史学 古代日本の謎に最新科学が挑む

ホームズの時代を終えた考古学研究

ここ十数年の考古学の発展は目ざましいが、それを可能にした外的な条件としては、まず、道路や宅地の開発がある。受益者負担の原則によって土木建設費の一部が発掘調査に回る回路が確立し、何千人もの発掘者が常時どこかを掘っている状態になった。これはまあ、遺跡の破壊を前提としているから痛しかゆしだろう。

もう一つ重要な条件として、こっちの方はかゆいだけで痛くはないが、X線といった古典的なものから最新の遺伝子研究まで、さまざまな技術が遺物の分析に動員されるようになった。科学が考古学の世界をひろげる時代に入ったわけだが、現在どの辺までひろがったかを知るには、河出書房新社の図説シリーズの一冊としてこのたび刊行された柏原精一著『図説 邪馬台国物産帳』を手にするといい。科学ジャーナリストの著者が、美しい図版をふんだんに使って、現在成立の渦中にある日本の考古科学の世界に読者を案内してくれる。

たとえば、魏から倭の女王卑弥呼に贈られたと史書に記される銅鏡百枚に当たるかどうかの論争であまりに名高い「三角縁神獣鏡(さんかくふちしんじゅうきょう)」について、青銅中に含まれる鉛の分析は、「すべて中国製の鉛が使われ、日本産の鉛は検出されなかった」。日本でしか出土しない形式の鏡なのに、原料は中国産であることが明らかになった。とすると、日本に贈るために中国で製造された、と僕なんか素直に結論してしまうが、そこはそれ考古学の世界はむずかしくて、鉛だけ輸入して日本で混ぜたとかいろんな推理が派生する。

科学で結論の出るのもある。簡単そうで意外に難しいのは木製品の樹種の特定だが、弥生時代から棺(かん)にはコウヤマキがもっぱら使われ、朝鮮の歴代百済王の棺にも日本からのコウヤマキが使われている。

土器については「エネルギー分散型蛍光X線分析法」が有効で、古墳時代の須恵器についてはいくつかの産地と流通先が明らかになり、最大の産地と目される大阪陶邑製の須恵器は、岩手県から鹿児島県まで全国的に運ばれていた。

以上のような成果が、邪馬台国の時代の土器、金属器、木製品、ガラス、石器、貝製品、布、米、イヌ、ブタなどのすべての物産について分かりやすく述べられている。

考古学もシャーロック・ホームズの時代を終え、科学捜査の時代に入ったのである。

【この書評が収録されている書籍】
建築探偵、本を伐る / 藤森 照信
建築探偵、本を伐る
  • 著者:藤森 照信
  • 出版社:晶文社
  • 装丁:単行本(313ページ)
  • 発売日:2001-02-10
  • ISBN-10:4794964765
  • ISBN-13:978-4794964762
内容紹介:
本の山に分け入る。自然科学の眼は、ドウス昌代、かわぐちかいじ、杉浦康平、末井昭、秋野不矩…をどう見つめるのだろうか。東大教授にして路上観察家が描く読書をめぐる冒険譚。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

図説 邪馬台国物産帳 / 柏原 精一
図説 邪馬台国物産帳
  • 著者:柏原 精一
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(95ページ)
  • ISBN-10:4309724833
  • ISBN-13:978-4309724836
内容紹介:
理科系の歴史学 古代日本の謎に最新科学が挑む

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