あとがき
『波』に連載している「サイン、コサイン、偏愛レビュー」を一冊の本にまとめようという話が出た時、ある我儘を言いました。どうしても二〇一六年五月号の第七十四回分までを載せたい、と。すべてを収めるのは無理なので、その結果、いくつかの回の収録を見送らざるを得ないことになりましたが、どうしてもこだわりがありました。本書の最後の数回を読んでくださった方はお分かりになると思いますが、愛猫と一緒に読書してきた日々を、一冊にまとめておきたかったのです。近所の野良猫が産んだ叔父猫は一九九九年生まれ、叔父猫の兄妹が産んだ姪猫は二〇〇〇年生まれ。叔父は二〇一五年六月に、姪は二〇一六年三月に旅立ちました。それまでずっと、私が自宅で本を読んでいる時には必ず、私の傍らか、膝の上か、お腹の上か、背中の上に彼らがいて、のどを鳴らしていました。人生最高の読書時間でした。この本に詰まったその至福の時を懐かしみながら、今は一人で本を読み、その本に慰められています。
本書のカバーには姪猫(上側のキジトラ猫)と叔父猫(下側の黒猫)がいます。ラフを見た時、泣きそうでした。いや、正直言うと、泣きました。素晴らしい装画を描いてくださった西脇光重さんに心からお礼を申し上げます。
連載当初から見守ってくださった高梨通夫さん、この連載で入手困難本として紹介したカレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』を復刊させてくださった木村達哉さん、連載第一回からずっと毎回丁寧な感想をくださり、本書も担当してくださった編集者の大庭大作さん、そして連載でも書籍化の作業でも驚くほど細やかな確認作業をしてくださった校閲の方々、本当にありがとうございました。そしてお読みになってくださったみなさまに、心から感謝します。
「サイン、コサイン、偏愛レビュー」の連載は今後も続きます。今回読み返してみて、まだ挙げていない好きな作家、好きな作品がかなりあることに気づいて愕然としています。これからも少しずつ、偏愛本について好き勝手に語っていきますので、気が向いたらおつきあいくださいませ。どうぞよろしくお願いいたします。
二〇一七年九月吉日 瀧井朝世