まえがき
この本は、決してオススメ本を挙げたブックガイドではありません。万人にオススメできるなんて保証はできないけれどもとにかく私は好き、と思う作品について、思いのままに書いた連載をまとめたものです。連載媒体は新潮社の『波』。書評など読書情報を載せた小冊子です。そこに二〇一〇年四月号から「サイン、コサイン、偏愛レビュー」という連載を始めました。新刊一冊を挙げ、そこから連想した好きな作品二冊を合わせた三冊レビューが基本形。選択の基準はもちろん、「私の偏愛本」。連載は今も継続していますが、二〇一六年五月号掲載分までのなかから五十六回分を抜粋しています(なぜその号までなのか、理由はあとがきに書きました)。
読み返してみると、最初のうちは書評風にするかエッセイ風にするかの逡巡が感じ取れ、途中からは一回に四冊以上紹介していたり、連載開始当初はNGだった絶版本を取り上げていたり、個人的な思い出を書いたりと、なんだか好き放題になっています。でもどれも間違いなく、私にとって大好きな、大切な本たちです。昔から読書に関しては雑食なので、取り上げた本は国内小説、翻訳小説、ノンフィクンョンなどさまざまです(でもやっばり小説が多い)。
単行本にまとめるにあたり読み返してみて、著者情報が足りていないと思ったり、追加情報があったりするものが多々あり、新たに脚注という形で書き加えました。本に関係ないことも加えたりしています。また、私自身が書評本を読む時に絶対必要だと日頃思っていたので、巻末に索引も作成してもらいました。
忘れられないのは、この連載を読んだ編集者が古本を取り寄せて読んでくれ、復刊に漕ぎつけた海外小説があったことです。カレン・テイ・ヤマシタの『熱帯雨林の彼方へ』(風間賢二訳、新潮社)。今回、紹介した時点では市場に出回っていたのにすでに入手困難になっている作品もありますが、それらについても、こうしてまた新たに本に収録することで、誰かに存在を知ってもらえたら、あるいは思い出してもらえたらというのはささやかな願いです。
本は一人で読むものですが、やっぱり好きな作品については誰かに話したくなります。毎回そんな時の気持ちを素直に、勢いで書いています。勢いすぎるだろ、と自分でも恥ずかしくなる部分もありますが、「まあ、分かる」もしくは「何言ってんだか」と、どうかど笑読くださいませ。また、もしこれをきっかけに未読の作品を手に取っていただけたなら、こんなに光栄なことはありません。
まずは手に取ってくださってありがとうございます。お気軽にお読みください。