書評

『ではまた、あの世で 回想の水木しげる』(洋泉社)

  • 2018/09/13
ではまた、あの世で 回想の水木しげる / 大泉 実成
ではまた、あの世で 回想の水木しげる
  • 著者:大泉 実成
  • 出版社:洋泉社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(255ページ)
  • 発売日:2016-03-23
  • ISBN:4800308801
内容紹介:
「水木しげるは永遠である!」"水木原理主義者"の著者による、笑いと感動の「水木しげる」回想録。

不在が「存在」を強く感じさせる どこかなつかしいひと

会ったこともないのに、とてもなつかしいひとがいる。私にとって、水木しげるはそのうちのひとりだ。

水木しげるのことを思い浮かべるだけで、ほわほわと幸福な気持ちになり、得もいわれぬ開放感、安心感に包まれる。そして、これはとても不思議なことなのだけれど、昨年11月(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2016年)、「あの世」に旅立たれたのち、いっそう水木しげるという存在を近しく、かつ親しく感じるようになった。説明のつかない感情なのだが、さすがは水木しげる、と思うことにしている。

そんなわけで、書店で本書を目にしたとき、思わず吸い寄せられた。著者は大泉実成(みつなり)。みずから「水木原理主義者」を名乗り、妖怪探検のパートナーとして、70代のご本人と世界各地を何度も旅した経験をもつノンフィクション作家である。

訃報に接したときの心境に始まって、内容は多岐にわたる。折に触れ各誌に執筆してきた水木しげるをめぐる多彩なエピソード、貧乏時代、スランプ、冒険譚(たん)、宗教観、家族、漫画、妖怪……その人生と関わり合ったものやことが万華鏡のように詰め込まれ、要所要所、水木しげるのリアルな語りがふんだんに盛り込まれている。旅先では衣服に一切無頓着、「生死のことしか考えてないんです。他のことはどうでもいいんです」と断言。しかし、老いを感じて「死ぬるのはかなわんですから」。素のままを「愚直なまでにさらけ出す」水木しげるに、著者はひとりの人間としていっそうの敬意を抱く。「祖霊」という重要なテーマについても、人物像と作品を語りつつ、日本人の根源的な宗教意識との密接な関係を解きほぐし、すとんと腑(ふ)に落ちる。

日本の土着の風土と昭和という時代のなかから生まれた破格の人物に寄り添う筆致が、じつに気持ちがいい。「論」から重心をはずし、長年の交流を通じて生身で触れた人間像を構築するところは、ノンフィクション作家の面目躍如である。

「終章」は前代未聞、青山葬儀場での「御供花御芳名」リスト。「発起人 荒俣宏」に始まり、「あ行」から「わ行」まで延々10ページにわたって名前が続く。並外れた数に度肝を抜かれるが、この幅広さと深さは、「交遊」ではなく、水木しげるの万人を引き寄せる力の証し。一切の説明を省いた「終章」に、水木山脈への畏敬(いけい)を垣間見る。

あとがきも、すこぶる気持ちがいい。その一部。

これは異端の原理主義者から見た水木像なので、内容はかたよってますので、そこんとこの理解をよろしくお願いいたします。これから正しい水木伝がたくさん出ると思うので、正統な水木先生の歴史的意義についての研究はそちらにゆだねます。おそらく水木ファンには、一人ひとり大切な水木像があって、本書はそのひとつに過ぎません。

誰もが奇跡のようなひとだったと言い、「本人こそが水木しげる最大の作品」と断じるひともいる。私のような門外漢でさえ、この世に不在なのに、いっそうなつかしい感情が湧いてくるのはなぜだろう。

「水木しげるははるかに昔から、僕たちの世代にとって『ご先祖さま』のような存在なのかもしれない」という一文に膝を打った。
ではまた、あの世で 回想の水木しげる / 大泉 実成
ではまた、あの世で 回想の水木しげる
  • 著者:大泉 実成
  • 出版社:洋泉社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(255ページ)
  • 発売日:2016-03-23
  • ISBN:4800308801
内容紹介:
「水木しげるは永遠である!」"水木原理主義者"の著者による、笑いと感動の「水木しげる」回想録。

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2016年5月24日

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