書評

『私の名前はルーシー・バートン』(早川書房)

  • 2017/11/28
私の名前はルーシー・バートン / エリザベス・ストラウト
私の名前はルーシー・バートン
  • 著者:エリザベス・ストラウト
  • 翻訳:小川 高義
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2017-05-09
  • ISBN-10:4152096810
  • ISBN-13:978-4152096814
内容紹介:
ルーシー・バートンの入院は、予想外に長引いていた。幼い娘たちや夫に会えないのがつらかった。そんなとき、思いがけず母が田舎から出てきて、彼女を見舞う―。疎遠だった母と他愛ない会話を交わした五日間。それはルーシーにとって忘れがたい思い出となる。ピュリッツァー賞受賞作『オリーヴ・キタリッジの生活』の著者が描く、ある家族の物語。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー。

時を経て取り出された記憶

田舎から出てきた母が、久しぶりに会った、しかも病身の娘に向かって、次々と誰かの結婚が破綻した話をする。うんざりしそうな内容なのに、気がつけば引き込まれていた。ピュリッツァー賞を受賞した『オリーヴ・キタリッジの生活』で知られる著者の最新作は、ひとりの女性が自らのストーリーを語る「声」を獲得するまでの軌跡を描く。

語り手の「私」は、アメリカ中西部生まれ。11歳までガレージで暮らしていた。家にはテレビも本もなく、いつも空腹だった。長い歳月が流れ、現在ニューヨークに住んでいる彼女は、かつて9週間に及ぶ入院を余儀なくされたときのことを振り返る。幼い2人の子供と引き離されたこと、多忙な夫はなかなか病院に来られなかったこと、そして疎遠になっていた母とゆっくり話したこと……。病室という空間は閉ざされているからだろうか。ふだんだったら聞き流してしまいそうな言葉も、見逃してしまいそうな光景も、「私」のなかにくっきりと刻み込まれている。時を経て取り出された記憶は、また別の記憶を鮮やかによみがえらせていく。

貧しい家庭で生まれ育ったことは、「私」と兄姉の心に深い傷跡を残している。あまり多くの語彙を持たない母が、苦労させたことについて詫びる場面は切なかった。その後の「私」の反応も痛ましい。ただ、母が子供たちの悲しみがわからなかった悲しみを懸命に言葉にして伝えたことは、問題を解決できなくても、確実に「私」の世界の見方を変えるのだ。

自分は自分でしかなく、人生は一度しかないということを受け入れる終盤は清々しい。最後に「私」が思い出す風景の美しさに驚嘆する。
私の名前はルーシー・バートン / エリザベス・ストラウト
私の名前はルーシー・バートン
  • 著者:エリザベス・ストラウト
  • 翻訳:小川 高義
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:単行本(200ページ)
  • 発売日:2017-05-09
  • ISBN-10:4152096810
  • ISBN-13:978-4152096814
内容紹介:
ルーシー・バートンの入院は、予想外に長引いていた。幼い娘たちや夫に会えないのがつらかった。そんなとき、思いがけず母が田舎から出てきて、彼女を見舞う―。疎遠だった母と他愛ない会話を交わした五日間。それはルーシーにとって忘れがたい思い出となる。ピュリッツァー賞受賞作『オリーヴ・キタリッジの生活』の著者が描く、ある家族の物語。ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

週刊金曜日

週刊金曜日 2017年6月30日

わたしたちにとって大事なことが報じられていないのではないか? そんな思いをもとに『週刊金曜日』は1993年に創刊されました。商業メディアに大きな影響を与えている広告収入に依存せず、定期購読が支えられている総合雑誌です。創刊当時から原発問題に斬り込むなど、大切な問題を伝えつづけています。(編集委員:雨宮処凛/石坂啓/宇都宮健児/落合恵子/佐高信/田中優子/中島岳志/本多勝一)

関連記事
石井 千湖の書評/解説/選評
ページトップへ