書評

『所有という神話―市場経済の倫理学』(岩波書店)

  • 2017/09/03
所有という神話―市場経済の倫理学 / 大庭 健
所有という神話―市場経済の倫理学
  • 著者:大庭 健
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(289ページ)
  • 発売日:2004-07-27
  • ISBN-10:4000233963
  • ISBN-13:978-4000233965
内容紹介:
利潤という獲物を追って、負け組になるまいと日夜走りつづける。私たちは、そこで何を犠牲にしているのだろうか。市場経済という一つの社会システムによって、環境システムは破壊され、心的シ… もっと読む
利潤という獲物を追って、負け組になるまいと日夜走りつづける。私たちは、そこで何を犠牲にしているのだろうか。市場経済という一つの社会システムによって、環境システムは破壊され、心的システムは目に見えないままに腐食される。もろもろのシステムは、互いに汚染し合って危機は加速度的に深まってゆく。企業倫理の無残な崩壊も、さまざまな事件の背後にある自閉化も、その現れではないか。市場システムを倫理的に問うための、条件と根拠はどこにあるのだろうか。市場メカニズムを、自己組織システムの理論を援用しつつ解明し、経済行為を駆動している「所有」という観念の由来をたずねる。システムの孤立した一要素としての経済人モデルに替わって、他者たちと私との存在の相互承認に基づく平等と、そこに基礎を置く「人‐間」的関係のヴィジョンを模索する。効率性における優位は疑うべくもなく、他に選択肢はないかに見える市場システムの人間的・倫理的含意を考察する、「人‐間の倫理学」に向けて。
年初から景気回復が伝えられ、夏場も液晶テレビなど高額商品が売れたが、一方では貯蓄が底をつき破綻(はたん)する家計も続出した(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2004年9月)。構造改革はリストラを是とし大企業に業績回復させつつ、利益を底辺まで行き渡らせる策ではなかったのか。

いまこそ所得再分配や市場競争への規制などを唱える「リベラリズム」の出番だが、資本や身体・土地について所有権は不可侵であり所得は市場への「貢献」で配分せよと迫る「リバタリアニズム」に対し、経済活性化の点で旗色が悪い。著者は社会システム論と倫理学を駆使しつつ、福祉の正当化という経済学が避けてきた難問に挑む。

難解な表現が混じるが、市場は孤立系ではないというのがポイント。平等であるべき機会は権力により歪(ゆが)められ、自己決定しているかに見える個人も父母なく生まれはしない。社会は人々相互の「配慮と尊重」から成り立っているのだ。では、平等さを測る基準は何か?具体論が期待される。
所有という神話―市場経済の倫理学 / 大庭 健
所有という神話―市場経済の倫理学
  • 著者:大庭 健
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(289ページ)
  • 発売日:2004-07-27
  • ISBN-10:4000233963
  • ISBN-13:978-4000233965
内容紹介:
利潤という獲物を追って、負け組になるまいと日夜走りつづける。私たちは、そこで何を犠牲にしているのだろうか。市場経済という一つの社会システムによって、環境システムは破壊され、心的シ… もっと読む
利潤という獲物を追って、負け組になるまいと日夜走りつづける。私たちは、そこで何を犠牲にしているのだろうか。市場経済という一つの社会システムによって、環境システムは破壊され、心的システムは目に見えないままに腐食される。もろもろのシステムは、互いに汚染し合って危機は加速度的に深まってゆく。企業倫理の無残な崩壊も、さまざまな事件の背後にある自閉化も、その現れではないか。市場システムを倫理的に問うための、条件と根拠はどこにあるのだろうか。市場メカニズムを、自己組織システムの理論を援用しつつ解明し、経済行為を駆動している「所有」という観念の由来をたずねる。システムの孤立した一要素としての経済人モデルに替わって、他者たちと私との存在の相互承認に基づく平等と、そこに基礎を置く「人‐間」的関係のヴィジョンを模索する。効率性における優位は疑うべくもなく、他に選択肢はないかに見える市場システムの人間的・倫理的含意を考察する、「人‐間の倫理学」に向けて。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年9月26日

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