書評
『道具と機械の本――てこからコンピューターまで』(岩波書店)
とっつきにくい仕組みも一目瞭然
十七年前『カテドラル』でデビューし、日本の絵本の世界に少なからぬショックを与えたマコーレイが新しいタイプの本を出した。中世のゴシック大聖堂の作り方を克明な絵で分かりやすく解説した『カテドラル』の世界的成功の後、『ピラミッド』、『都市』、『キャッスル』、『アンダーグラウンド』(すべて岩波書店刊)と、もっぱら都市や建物をテーマに連作を続けてきたが、こんどの本は道具と機械を相手にしている。画風も一変して、これまでのクールな細密画的なタッチから童話風というか子供好みというか、とてもやさしい線に変わった。この変化はマコーレイ・ファンには淋しいものがないでもないが、機械というあまりにクールな対象を身近なものとして描くための方法として許してあげよう。ピラミッドや大聖堂のようにそれ自体に歴史的ロマンがあるものとは異なり、機械や道具は普通の人や子供には取っ付きづらいため、本の狂言回しとしてマンモスを登場させ、マンモスの重さをどうやって計るかといった切り口からテコの原理を説明したりしているが、これも許してあげよう。
とにかく、機械と道具という専門家にしかよく分からない対象をなんとか素人にも理解してほしいと、マコーレイはあの手この手を尽くしている。
取り上げられたのは、身近なところでは温度計、掃除機、魔法ビン、テレビ、電話、楽器などなど、身近でないところでは飛行機、原子炉、コンピューターなどなど、たいていの機械がその働きを図解されている。こうした具体的な現代の機械と道具の解説に先立って、かならず原理の説明が分かりやすくしてあるのはうれしい。たとえば、テコの原理をマンモスの体重測定(シーソー)でした後、栓抜きやクルミ割りやツメ切り、さらにグランドピアノや水車や水力発電所のタービンまでが実は同じテコの原理で動いていることにおよぶ。
僕が面白かったのはコンピューターや原子力と並ぶ、きわめて現代的な機械である“センサー”のところで、自動販売機はいったいどうやってコインを識別しているのか、この本で初めて知った。素人がなんとなく考えてるのとはまるでちがって、重さや寸法や図柄をチェックしているわけではない。チャリンと投入されたコインにはまず電気が通され、「コインに流れる電流は、金属含有量と大きさで決まります。本物のコインのときだけ正しい電流が流れます」という具合で、金属含有量に着目したチェックがなされている。
これまでも、現代の機械を分かりやすく説明しようという出版の試みはいくつもあるが、ここまで網羅的に取り上げた例はないから、百科事典的に使えるし、また、自分の子供が自分のようにメカやコンピューターに弱くなってほしくないと願う親にはクリスマスプレゼント用に良い一冊かもしれないが、効果のほどはやってみないと分からない。マコーレイといえどもできるのは、馬を泉のそばに連れてくるところまで。
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