書評
『ポンコツ武将列伝』(柏書房)
優秀でも剣豪でもないが家臣たちは見捨てない
仕事ができるわけではない。人間的な魅力にあふれていて、他社さんとの会合には欠かせないか、というとそうでもない。じゃあ、捨て猫を拾って育てる愛の人かというと、そんな裏話はない。でも、何だか気にかかる。放っておけない。そんな人、職場にいないだろうか。戦国時代、北関東に小田氏治(うじはる)という武将がいた。この人、何しろ弱い。居城である小田城を敵に奪われ、何度も取り返そうとして、その都度失敗している。でも不思議なことに、家臣たちはこのぼんくら主を見捨てない。どこまでもついていく。どこか魅力のある人だったのだろう。そんな不思議な武将なので、戦国マニアの間では人気がうなぎ登り。「おだ」といえば信長ではなく、この小田氏治を指すほど(しかも何の偶然か、信長と氏治は同い年)だそうだ。
本書はこの氏治のような、「強さが大前提」であるはずの武将なのに「ポンコツ」と呼ばれる人物を集めて紹介している。ただ、ここを間違えてほしくないのだが、彼らはダメダメではあるが、何か良いところを持っている。その証拠に、彼らの多くは、非業の最期を遂げるのでなく、畳の上で往生している。過酷な状況を生き抜き、寿命を全うしている。彼らのどこに、どんな良い点があったのか。それを見つけ出すことは、人間を多角的に見る、またとないトレーニングになるかもしれない。
著者はかつて芸人で、今は構成作家やテレビ番組の裏方を務める傍ら、歴史作家として活躍している。説教くさい説明や難しい理屈は研究者に任せ、歴史の楽しみ方を伝えている。こういう試みがあれば、歴史はまだまだ人々の興味をかき立てるコンテンツであり続けるだろう。これからも健筆を振るってほしい注目の書き手である。
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