書評

『ドタバタ関ヶ原』(柏書房)

  • 2020/11/21
ドタバタ関ヶ原 / 長谷川 ヨシテル
ドタバタ関ヶ原
  • 著者:長谷川 ヨシテル
  • 出版社:柏書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(256ページ)
  • 発売日:2020-07-22
  • ISBN-10:4760152571
  • ISBN-13:978-4760152575
内容紹介:
アセりまくる徳川家康、グチばかり石田三成――寝返り、抜け駆け、遅刻あり、笑いと涙、カオスでトホホな天下分け目の大合戦舞台裏!

武将たちの人間くささを新たな知見と共に活写

関ヶ原の戦いには、天下分け目と称されるにふさわしく、いろいろな問題点があり、エピソードがある。本書はそのエピソードの方を、おもしろく、わかりやすく、紹介している。

著者の長谷川ヨシテル氏は、「れきしクン」としてテレビに登場するタレントであり、もともとは芸人としてデビューした経歴をもつ。ならばよくあるタレント本の一冊で、エンタメとしての読み物にすぎぬだろうと高を括(くく)っているとさにあらず、中味は正真正銘の本格派である。しっかりと歴史研究の進展を吸収し、新しい知見を随所にちりばめている。

たとえば、薩摩の猛将、島津義弘は3000(1500とも)の兵を率いて西軍陣営に加わった。西軍の敗北が決定すると、「島津の退(の)き口」として知られる苛烈な撤退戦を展開したことは有名である。ところが、彼ははじめ、徳川家康の伏見城に入城しようとした。つまり東軍に味方しようとしたのだが、伏見城の留守を預かる鳥居元忠に拒絶され、やむなく西軍に属した。そう歴史通は理解している。

ところが長谷川氏はこれに異を唱える。根拠となる文書を紹介し、実は義弘は反家康グループの主要メンバーだったと指摘する。当時の島津家内部を分析すると、家の実権を握っていた島津義久(義弘の兄)vs.義弘という図式となる。一方に反・豊臣の義久と保守派家臣たち、対して一方に、島津領の検地を実施した石田三成と近い義弘、という整理はまことに明快である。長谷川氏の見解は、学問的にも十分な説得力をもつのだ。

著者は読者のニーズに応えよう、読者を満足させよう、というサービス精神に溢れている。本書も「かゆいところに手が届く」構成になっている。楽しく歴史を知るのに好適。
ドタバタ関ヶ原 / 長谷川 ヨシテル
ドタバタ関ヶ原
  • 著者:長谷川 ヨシテル
  • 出版社:柏書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(256ページ)
  • 発売日:2020-07-22
  • ISBN-10:4760152571
  • ISBN-13:978-4760152575
内容紹介:
アセりまくる徳川家康、グチばかり石田三成――寝返り、抜け駆け、遅刻あり、笑いと涙、カオスでトホホな天下分け目の大合戦舞台裏!

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初出メディア

サンデー毎日

サンデー毎日 2020年9月27日号

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