書評

『ファミリー・ライフ』(新潮社)

  • 2018/08/24
ファミリー・ライフ / アキール・シャルマ
ファミリー・ライフ
  • 著者:アキール・シャルマ
  • 翻訳:小野 正嗣
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(213ページ)
  • 発売日:2018-01-31
  • ISBN:4105901435
内容紹介:
インドからアメリカに渡り、ささやかな幸福を築いてきた移民一家の日常が、ある夏のプールの事故で暗転する。意識が戻らない兄、介護の毎日に疲弊する両親、そして悲しみの中で成長していく弟。痛切な愛情と祈りにあふれる自伝的長篇。フォリオ賞、国際IMPACダブリン文学賞受賞作。

理不尽な出来事いかに慈しむか

インドのデリーからアメリカへ移住し、新たな生活を始める一家。父と母、兄のビルジュ、弟のアジェ。本書は、少年だったアジェの目から捉えられた家族の日々を、回想的に描く小説だ。ある日、兄はプールで事故に遭う。その後遺症によって、本人も家族も苦しむことになる。学業優秀だった兄だが、決まっていた高校進学の道が閉ざされたばかりでなく、身のまわりのことも自分では出来なくなってしまう。家族の暮らしは一変する。

状態は好転しない。父は酒に溺れ、母はやり場のない怒りに取りつかれたようになる。それでも、家族が兄を見棄(みす)てることはない。アメリカ社会での慣習の違い、人種や宗教の違いなどから生じる困難を少しずつ乗り越え、一家は変化に対応していこうとする。悲しみや苛立(いらだ)ちや罪の意識に襲われることがあっても、それらすべてを抱えて生きていくのだ。

「僕」は本を読むようになり、ヘミングウェイ関連の書物に目を通す。やがて、自分でも物語の執筆を試みるようになる。「僕たちの苦しみが含まれる文章を書くのだ」という自覚が、十代半ばの少年を強く揺さぶる。「書くことは僕を変えた」。心に抱えるものを言葉に置き換える行為が、少年を成長させていく。

脳に損傷を受けた兄は、もう一言も喋(しゃべ)ることはできず、目を開けた状態でも見えていない。兄の在り方を受け入れ、それに添いつつ、家族はかたちを変えていき、それぞれに年を取っていく。どのように生きても一生は一生だ。

理不尽な出来事が人生に残す爪痕を、どうしたら直視でき、どのように慈しむことができるのか。この自伝的小説が発する問いは、どこに、いつの時代に生きても、多かれ少なかれ誰もが直面する悲しみや悔しさや怒りと結びつく。だからだろう、言葉による表現を読む、という体験についての、基本的な姿を何度も思い起こさせるのだ。
ファミリー・ライフ / アキール・シャルマ
ファミリー・ライフ
  • 著者:アキール・シャルマ
  • 翻訳:小野 正嗣
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(213ページ)
  • 発売日:2018-01-31
  • ISBN:4105901435
内容紹介:
インドからアメリカに渡り、ささやかな幸福を築いてきた移民一家の日常が、ある夏のプールの事故で暗転する。意識が戻らない兄、介護の毎日に疲弊する両親、そして悲しみの中で成長していく弟。痛切な愛情と祈りにあふれる自伝的長篇。フォリオ賞、国際IMPACダブリン文学賞受賞作。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2018年3月4日

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