書評
『ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実』(河出書房新社)
歴史変えた音楽の創造秘話
文字通り「最後の真実」の名に値する記録だ。なぜなら、著者は「リボルバー」「サージェント・ペパーズ……」「ホワイト・アルバム」「アビイ・ロード」という音楽の歴史を変えた20世紀最重要の4枚のアルバムの録音技師、すなわち技術上の責任者だったからだ。この分厚い回想録を読むと、ビートルズがライブ演奏を放棄した理由が納得できる。あの音楽はスタジオ以外では演奏も録音も再現も不可能だったのだ。
その創造秘話はどきどきするほど面白いが、すでにルウィソーンの『ビートルズ/レコーディング・セッション』という名著でほぼ明らかにされている事実だ。この本の美点は、その細部がビートルズ・サウンドのすべてを知る一人の男の肉声で語られているところにある。
それにしても恐るべき記憶力だ。文章もうまい(訳文もすばらしい)。その生き生きとした文章で綴(つづ)られるハイライトはビートルズの崩壊過程だ。著者は4人のビートルの個性を巧みに描きながら、彼らの無二の友情が、人間関係の力学を通してとり返しのつかない嫌悪へと変わる必然性を平易に説いている。ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの回想録をこえる出来ばえだ。
朝日新聞 2007年1月28日
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