勇気をあたえられる書物だ。生きて、仕事を続ける勇気。映画に興味のある若い人にぜひ読んでほしい。
助監督時代、子供たちが寒い海に入る映画を撮った。子供に温かいうどんを食わせてやりたい。だが冷えたら逆効果だ。だから出前の注文のタイミングを計って待機した。そんな心くばりが次第にスタッフや役者の信頼を得る。それが映画作りの原動力だという。
第一作『どついたるねん』でボクサーの赤井英和に汗が必要になった。何百人ものエキストラを待たせて赤井に腕立て伏せをさせた。そうして出た本物の汗があの映画の迫力を生んだ。監督も役者もいい根性だ。
代表作『顔』では主役・藤山直美の暗さに注目した。そこに、周囲に対して「閉じていた」思春期の自分の暗さが重なりあったという。この件を読んで、つねに暗い内省を遠心力でぶち破る阪本映画の秘密が分かった気がした。感動的な実践的映画論であり、告白的人間論でもある所以だ。