著者は大学から大学院へ進む前後十年間に三〇〇〇本以上の映画を見た。その多くは東映ヤクザ映画や日活ロマンポルノである。つまり、日本のプログラムピクチャーの最後の光芒を一身に浴びながら、鬱屈した青春を送っていたのだ。
浪費された時間はここに奇書として結晶した。選ばれた脇役は十二人。出てくる女優が三原葉子と芹明香だけという選択を見ても、この映画館主の趣味の良さを知ることができる。
しかし、ヤクザ映画もポルノ映画館も男たちのホモソーシャルな悪のパラダイスであり、男優の悪の魅力を論じてこそ、鹿島教授の筆は冴えに冴える。
圧巻は冒頭と掉尾を飾る荒木一郎、渡瀬恒彦、成田三樹夫論。これぞ男の悪の華。ともかく面白いだけでなく、「博徒外人部隊」の渡瀬恒彦の登場に、美的なユートピアの成立の不可能性という日本文化全体の転回点が見られる、という指摘など、意外かつ犀利な分析の連続に思わず膝を打つ。