書評

『国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録』(朝日新聞社)

  • 2024/09/17
国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録 / 蓮實 重彦,山根 貞男,吉田 喜重
国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録
  • 著者:蓮實 重彦,山根 貞男,吉田 喜重
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(303ページ)
  • 発売日:2004-06-11
  • ISBN-10:4022598530
  • ISBN-13:978-4022598530
内容紹介:
ペドロ・コスタ、ホウ・シャオシェン、アッバス・キアロスタミ、青山真治、黒沢清、是枝裕和、崔洋一らの映画監督と、淡島千景、香川京子らスターが、2日間にわたって繰り広げた熱い「オヅ」討… もっと読む
ペドロ・コスタ、ホウ・シャオシェン、アッバス・キアロスタミ、青山真治、黒沢清、是枝裕和、崔洋一らの映画監督と、淡島千景、香川京子らスターが、2日間にわたって繰り広げた熱い「オヅ」討論の全記録。
第一日 生きている小津安二郎
世界の評論家が見た小津安二郎
女優に聞く. 1
世界の監督たちが見た小津安二郎
第二日 日本の監督たちが見た小津安二郎
女優に聞く. 2
全体討議まとめ
シンポジウムを終えて 次の百年に向けての問い

「謎と未知」の監督を語り合った全記録

昨年、小津安二郎の生誕百年を記念して大規模なシンポジウムが開かれた。世界から集まった豪華なゲストたちは、二日間満員の聴衆がつめかけたことに感激した。その全記録である。三百ページほどの本だが、中身はとてつもなく濃い(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆年は2003年)。

会の冒頭で、蓮実重彦は小津安二郎を未知の監督として定義しなおす。戦前の小津映画では、田中絹代や八雲恵美子がピストルを構えていた。さすがに、戦後は原節子が拳銃を手にするわけにもいかないから、新珠三千代や司葉子や京マチ子が手にもったものをどんどん放りなげた。小津作品は戦前から一貫して女性のアクション映画だったのだ。なるほど、小津は未知の監督なのである。

吉田喜重は、九歳で見た『父ありき』の川釣りの場面を語る。渓流に並んだ父と息子の少年が、同じ釣りの動作を反復する。ふと父が少年に別れが近いことを告げる。すると、少年の反復の動作が次第にずれていき、釣りは終わってしまう。人生は日常の反復である。だが、いつのまにかずれが入りこみ、同じ行為が変質してしまう。反復とずれ、それが人生の時間の意味だと吉田少年は直感した。

小津は映画を観客に「見せる」ことをきらった。ただ曖昧なままに「見られる」ことだけを願った。そこから小津映画の謎めいた印象が生まれてくる。

この吉田喜重のいう小津映画の謎めいた曖昧さをめぐって、世界から集まった映画評論家と監督たちが次々に言葉をつむぐ。小津の謎と未知こそがこのシンポジウムの原動力なのである。

小津映画の不思議さを前にして、オリヴェイラが、キアロスタミが、ホウ・シャオシェンが、自分の映画作りの根本について省察をめぐらし始める。そのたびに会場は、映画という謎と未知にたちむかう厳粛な畏れに包まれていく。

九十歳近い井上雪子をはじめ、岡田茉莉子や香川京子など、小津映画に出演した女優たちの話も興味ぶかい。井上雪子は岡田茉莉子の父・時彦と小津映画で共演していた。一歳で父を亡くした茉莉子は初めて映画での父の声を耳にする。そこがシンポジウムの感動の頂点である。
国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録 / 蓮實 重彦,山根 貞男,吉田 喜重
国際シンポジウム 小津安二郎 生誕100年「OZU 2003 」の記録
  • 著者:蓮實 重彦,山根 貞男,吉田 喜重
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(303ページ)
  • 発売日:2004-06-11
  • ISBN-10:4022598530
  • ISBN-13:978-4022598530
内容紹介:
ペドロ・コスタ、ホウ・シャオシェン、アッバス・キアロスタミ、青山真治、黒沢清、是枝裕和、崔洋一らの映画監督と、淡島千景、香川京子らスターが、2日間にわたって繰り広げた熱い「オヅ」討… もっと読む
ペドロ・コスタ、ホウ・シャオシェン、アッバス・キアロスタミ、青山真治、黒沢清、是枝裕和、崔洋一らの映画監督と、淡島千景、香川京子らスターが、2日間にわたって繰り広げた熱い「オヅ」討論の全記録。
第一日 生きている小津安二郎
世界の評論家が見た小津安二郎
女優に聞く. 1
世界の監督たちが見た小津安二郎
第二日 日本の監督たちが見た小津安二郎
女優に聞く. 2
全体討議まとめ
シンポジウムを終えて 次の百年に向けての問い

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年08月01日

朝日新聞デジタルは朝日新聞のニュースサイトです。政治、経済、社会、国際、スポーツ、カルチャー、サイエンスなどの速報ニュースに加え、教育、医療、環境、ファッション、車などの話題や写真も。2012年にアサヒ・コムからブランド名を変更しました。

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